※海常三年生組が小学校からの同級生設定。 |
海に染まりたい 海沿いの平坦な道を、ランドセルを背負った少年三人が並んで歩いている。まだ夕暮れには早い時間であり、小学生が真っ直ぐに帰宅するには物足りなさを感じるだろう。穏やかな午後の日差しがきらきらと、海面に反射しては少年たちの目に飛び込んで来た。 「なぁ、笠松。お前の隣の席の子可愛いな」 三人並んだ真ん中の少年に、海側を歩いていた少年が話しかける。さらさらとした髪の、目元の涼しげな少年の名を森山由孝という。10歳になったばかりの森山は、紹介しろよ、と言いながら笠松の腕をつついた。 「しょ、紹介って何だよ!」 笠松と呼ばれた少年は頬を染めながら森山と距離をとろうとするが、車道側を歩いていた、三人の中で最も背が高い少年にぶつかり、危ないぞと言われて渋々森山の隣に戻る。車道側を歩く少年は小堀浩志といい、しょっちゅう中学生に間違われるくらいには長身だった。背負っているランドセルは小さくて、近いうちに学校へ行くカバンを新調しなければならないだろう。 「紹介くらいいいだろ?」 「よくねぇ!」 「髪を二つ結びにしてて、笑った顔がすごくみりょくてきだと思ったんだ、俺は。だから笠松、紹介しろ」 「しねぇつってんだろ!」 最近覚えたばかりの“魅力的”だという言葉を使えたことに満足気な表情をしながらねだる森山に、笠松は思いっきり眉を顰める。こいつをどうにかしろ、と言いたげに向けられた視線に小堀は困ったように笑うだけだ。 「笠松、いつまでも女の子と喋らないってわけにもいかないだろ?中学生になったら彼女作って、デート行きたいじゃん」 「俺は行きたくない」 「そんなんじゃ結婚もできないぞ〜?」 「しねぇよ!」 「痛っ!」 苛々としていた笠松が、バシッと森山の頭を叩く。暴力はんたーい、小堀も反対だよな、と痛みに頭を押さえながら喚く森山を見ながら小堀は笑った。 「笠松、頭は大事だからシバくなら体にしろよ」 「おう」 「ひどっ!」 そうして三人で顔を見合わせて、声を上げて笑う。毎日毎日一緒にいて飽きないのか、と誰かに言われたけれど、この三人でいるのが心地よかった。ミニバスのチームも同じで、こいつら以上の仲間はいないと口には出さないが笠松はそう思っている。 今日は先生たちの会議があるとかでいつもよりも早く学校が終わり、ミニバスの練習も無い。これから一旦家に帰り荷物を置いてボールを持ち、三人の家からほど近い公園で練習をすることになっていた。 「なぁ」 頭の後ろで手を組みながら、森山が口を開く。また女子の話なら今度は蹴り飛ばす、と考えていた笠松は、高校どこ行きたいの、という突拍子もない質問に驚いてしまった。小学四年生の三人には、高校なんてまだまだ先のことに思える。 また急な話だなぁ、と呟く小堀に、うちの姉ちゃんが来年高校生なんだ、と森山は答えた。 「中学もだけど、俺、高校生になっても笠松と小堀とバスケしたいから」 「それは、俺もだよ。笠松の指示聞いて、森山の変なシュートもずっと見てたいし」 そう言うと、森山と小堀は笠松を見る。両側から見つめられることにこそばゆさを感じながら、笠松は答えた。行きたい高校はもう決めてる、という発言に、笠松以外の二人は目を見開く。 「どこ行きたいんだ?」 「海常高校」 「かいじょう?」 小堀と共に首を傾げた森山が、数秒後ポンッと手を叩いた。海色の制服のとこだよな、と確認する言葉に笠松は頷く。 全国大会常連の強豪校、海常高校。その名の通り、爽やかな青がイメージカラーの学校だ。笠松たちがいつも見ている海と同じ色だった。 海常、と小堀が一音ずつ確かめるように声に出して、いいな、と笑う。そうだな、と森山も目を細めた。 「それに、海常のお姉さんたちは可愛かった気がする!」 いつか海常高校の近くまで行ったときのことを思い出してガッツポーズする森山を、黙れと蹴飛ばした笠松の頭上でカモメが一羽うるさく鳴きながら海へ向かって飛んで行く。それにつられて、三人とも海へと視線を移した。 遠くない未来に少年たちの色になる青い青い海が、そこには広がっている。 - - - - - - - - - - 笠松、森山、小堀が小学生のときからずっと一緒だったらいいなというお話でした。 2012.11.25. |