※高尾視点。 |
Give me a kiss 黄瀬に一目惚れした俺が、好きだと告白してから一カ月。OKという返事をもらって、つまり付き合うようになってから三週間。二人っきりで会うのはこれが二回目。それも、俺は部活終わりで、黄瀬はモデルの仕事帰りだ。カラオケに行くような時間もなくて、とりあえずマジバで向かい合って座っている。デートというには、だいぶ物足りない。 ちぅ、とバニラシェイクを啜る黄瀬を見ながら、俺は質問をするために口を開いた。 「黄瀬はさぁ、俺のどこが好き?」 付き合いたてだからこそできる初々しい質問。告白したのは俺からだけど、好きでもないやつと、それも同性となんて付き合う気にはならないだろう。 俺の言葉に、黄瀬は綺麗な黄金色の瞳をぱちりと瞬かせてストローから口を離した。 「んと、高尾くんの好きなとこはねぇ、」 黄瀬の口から“高尾和成の好きなところ”が飛び出す前に、俺は少し考えてみる。今までに女の子から言われてきた言葉を思い出しながら、視線を僅かに斜め上へと移動させた。 『顔が好き』とはよく言われたりしたけれど、モデルという仕事をしていて目が肥えている黄瀬がそう言うとは思えない。それに、キセキの世代は身体能力も然ることながら顔面偏差値も高い。真ちゃんは黙ってさえいればモデルもできそうな顔立ちだし、赤司なんて美少年そのものだ。だから、“顔”はあり得ない。 『良い声してるよね』とも言われる。歌にも自信あるし。これは良い線いってるんじゃなかろうか。 コンマ数秒でこんな結論を出して、きらきらと輝いているようにも感じられる正面へと視線を戻した。黄瀬が、言葉を紡ぐ。 「口、かな」 「くち?」 「うん」 予想外な単語が出て来て、それに導かれるかのように右手で自分の唇へと触れた。荒れてるわけではないけど、潤ってるわけでもない。少し乾燥した感触。 目の前の黄瀬を見る。薄くて形の良い唇は、とても柔らかそうだ。って、これは口じゃなくて唇か。 「好戦的に笑うとことか、つまんなそうに尖らせるとことか、好きっスよ」 訝しげにしていたのだろう俺を見つめて、黄瀬が美しい双眸を細めて笑う。僅かに色づいた唇が綺麗に弧を描いた。 「……口とか予想してなかったからびっくりしたわ」 「ははっ、別のとこが良かったっスか?」 「いや、全然!むしろ初めて言われたから新鮮だし、嬉しいな」 そうだ、嬉しい。在り来たりなこと言われないってだけでも、少しは興味持たれてるんだなって安心できる。 自然と口角が上がってしまうのをどうにもできずに口元を押さえる俺を真っ直ぐ見つめたまま、黄瀬はバニラシェイクを手に取った。 「キスされたいって思うっスもん」 高尾くんの口見てると、と小さく聞こえたのは気のせいだろうか。目を見開く俺の前では、黄瀬が何もなかったかのようにストローに口を付けていた。黄金色の瞳はトレイに載ったポテトへと向けられて、さらりと指通りの良さそうな前髪にそれも隠されてしまう。ストローを咥えたまま僅かに俯いてしまった黄瀬の、金色の髪から覗く耳が徐々に赤く染まっていく。 (かっわいい……!!) え、ちょっと、やだ、何これ。可愛すぎて息が出来ないとはこのことか。ハートに矢が刺さったという表現がこれほどぴったり当てはまることもないだろう。初恋みたいにドキドキする心臓を抑えながら、広い視野で店員や他の客、監視カメラの死角になっていることを確認し、身を乗り出して黄瀬の顔を上向けた。可愛い恋人の望みを叶えるまで、あと少し。 2012.12.10. |