※年齢操作。森山視点。


白いタキシードを着た笠松の傍らには、純白のウェディングドレスを着た可愛らしい女性が寄り添っている。
幸せそうな新郎新婦から視線を外して隣に座る目立つ後輩を見遣ると、その顔にはぎこちない笑みが浮かんでいた。



――黄瀬の六年にも渡る片想いは、たった今終わりを迎えたのだった。




三度目の正直にしてみようか




二次会でべろんべろんに酔ってしまった黄瀬を引きずって帰宅するのは、大層骨が折れた。
そう広くない男一人暮らしのリビングに置かれたソファに、人気モデルとは思えないだらしない顔をした後輩を座らせる。上着は脱がせて、ネクタイを緩め、シャツのボタンも上から二つ分外してやる。自販機で買ったミネラルウォーターのボトルをわざわざ蓋を開けて渡せば、彼はぼんやりした目でこちらを見て微笑んだ。





俺が黄瀬の片恋に気付いたのは、インターハイで桐皇と戦った後だと記憶している。あまりに笠松を目で追っているものだから、冗談交じりに好きなのかと訊いたらそれが当たってしまったのだった。
詳しく話を聞いてみると、初恋の相手は青峰で次に好きになったのが笠松だというのだから、驚きも倍増である。お前ってゲイなの、と訊いてはみたけれど、本人も分からないという風に首を振るものだから、そんな恋もあるんだな、と自由恋愛主義者らしく納得したのが随分昔のことのようだ。
俺自身は女の子が好きだが同性愛に偏見があるわけでもなく、可愛い後輩エースの恋を見守ってやろうと決めて今まで過ごして来たのだけれども。とうとう黄瀬は積極的なアプローチをかけることもなく、密かなそして長い片想いにさよならを告げたのだった。



別杯だとばかりに二次会で浴びるように洋酒を呑んだ黄瀬は、当然のごとく酔った。それも、俺たちが見たことのないくらいべろんべろんに、だ。
未だに主将の性質が抜けない、というか生涯抜けることのないだろう笠松が、黄瀬を連れて帰ると主張したけれど、俺と小堀と早川という懐かしのメンツで必死に首を振って断固拒否した。いくら可愛くて懐いていた後輩だとしても、新婚家庭にお邪魔するなど到底考えられない。笠松はよくても、嫁さんからは顰蹙を買うだろう。
どこか不服そうに眉を寄せる笠松など放っておいて、小堀と早川と相談した結果、二次会の会場から一番家の近かった俺が連れて帰ることになったのだった。いくら何でも、人気モデルを酔った状態で一人帰宅させるわけにはいかない。






「よ〜し〜た〜か〜」

「はいはい、どうしたのかな、酔っ払いさん」

舌っ足らずに下の名前を呼ぶ黄瀬に苦笑して、赤みの引かない頬に手を添えてやる。熱を持つ頬に触れる体温の低い手が心地好いのか、うっとりと金色の双眸を細める様子が猫のようだと思った。
深くソファに体を預ける黄瀬の隣に座って、綺麗に整った顔を覗き込む。

「……森山、先輩」

「ん?」

「臆病なんスよ、俺」

青峰っちのときも、笠松先輩のときも、と続けられる言葉の先は既に分かっているから、俺はただ徐々に潤んでいく黄瀬の瞳を見つめることにした。目の縁に溜まった水は、重力に従ってそのまま落ちていこうとする。
いっつも思うんだけど、こいつの涙はほんとに綺麗。ぼろぼろと大粒の水滴を零して子供のように泣くくせに、それがとても美しいのだ。

「一生コイビトなんてできないんスかねぇ。森山先輩は、ずっとフリーなんスか?」

「今は、俺の魅力に気付いてくれる女の子を探してるところだ」

「ふはっ、ずっとそれ言ってるじゃないスかぁ」

真面目に言ったつもりの俺の言葉に、黄瀬が笑う。肩を揺らした拍子に目尻の涙が一粒落ちて、シャツの胸ポケット辺りに小さな染みを作るのが見えた。

「でも、森山先輩まで結婚しちゃったら、何だか寂しいっスねぇ」

「こら、それはいくら可愛い後輩の冗談としても聞き逃せないぞ」

「ジョーダンじゃないっスよぉ、半分くらいは、本気っス」

そうやって力なく微笑う表情がとても儚いものだったから、俺くらいは付き合ってやってもいいかなと、思った。
可愛い、いじらしい、とはずっと思ってたんだ、それも高校生のときから。俺なら幸せにするのにな、と思ったこともある。
何だ、とっくの昔に答えは出ているじゃないか。

「黄瀬」

「ふぇ、何スか」

子供のように大きな瞳を瞬かせて、黄瀬が俺を見る。
だらりと垂れている彼の手をとって、唇を寄せた。状況の読めていない黄瀬が、不思議そうに首を傾げる。

「これは、もしかしたらずっと前から決まっていた運命だったのかもしれないな」

“運命”というのは俺が一番好きな言葉でもある。
海常で出会い、それから六年も経ってこうして二人で一緒にいるのは、運命だったにちがいない。

「三度目の正直、って言葉があるだろ。その相手に、俺を選んでみるのもいいんじゃないか」

自分のできる最上級の笑みを浮かべて指先に送った口付けに、どうにも可愛らしい後輩は酔いで真っ赤な顔色をさらに濃くしてくれたのだった。





2012.08.19.

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