パステルカラーのポップな内装、果物やチョコのケーキを囲んで話に花を咲かせる女子のグループ、ゆっくりとお茶を飲みながら甘い雰囲気を纏うカップル。窓から見える店内の様子に、緑間の眉間に深く皺が寄った。男性客なんて全体の一割ほどで、それも女の子連れ。男同士で店内に入るのはなかなか勇気のいることだ。
今日のラッキーアイテムであるひよこのガマ口を持つ緑間の手が僅かに震えていることに気付いて、可愛いなぁ、と黄瀬は頬を緩めた。特別バージョンだか何だかで、今日のおは朝はラッキーアイテムだけでなくラッキーパーソンとラッキープレイスも教えてくれたそうだ。ふたご座の人がラッキーパーソンだからと誘われ、こうしてラッキープレイスであるスイーツバイキングにやってきたのだけれども。学生のお財布に優しいチェーン店を覗いてみればこの有り様で、さっきから緑間は己の羞恥心やら何やらと葛藤しているようだ。
可愛いなぁ、ともう一度緑間を見上げて、そうして黄瀬は大通りの向かい側を指差した。

「緑間っち、向こうにもスイーツバイキングあるっスよ。ホテルのレストランのやつだから、こっちより値段は張るけど」



スイーツインビテーション




落ち着いた色で纏められたレストランの中、穏やかに流れて来る音楽はクラシック。ほっとした表情でコーヒーのカップを口に運ぶ緑間を見て、黄瀬は皿にとったチーズケーキを切り崩しながら口を開いた。

「それにしても、ラッキーだったっスね。泣いてる女の子のために街路樹にひっかかってた風船を取ってあげたら、その子の母親から期限が今日までだからどうぞ、お礼です、ってここの割引券を貰えるとは思わなかったっス」

「人事を尽くしているからなのだよ」

緑間が眼鏡を押し上げて、フルーツタルトへとフォークを刺し入れた。テーピングの巻かれた美しい左手がケーキを口元へと運ぶのを、黄瀬はじぃっと見つめている。

(おは朝様々っスね)

胸の中で呟いて、切り分けたままだったチーズケーキを口に含んで咀嚼した。柔らかな酸味と心地好い甘さが広がって、うっとりと瞳を細める。幸せだ。おは朝占いのおかげで、緑間とこうして美味しいものを食べることができる。大好きな人と共に食べると、よりいっそう美味しさも増す気がする。

「美味しいか」

「うん、美味しいっスよ」

ゆっくりとチーズケーキを消費していく黄瀬に向かって、緑間が尋ねた。黄瀬は大きくぱちりと瞬いて、その問いに答える。

「どうしたんスか、急に。緑間っちも、これ食べる?」

いや、と皿を差し出そうとするのを断ると、緑間は翠玉の双眸で黄瀬を見つめた。食べたいものがあるならば、様々な種類の菓子が並べられているところへ皿を持って取りに行けばいいのだ。バイキングなのだから。チーズケーキが食べたかったのではなくて、と緑間は言う。

「お前があまりにも幸せそうな顔をするから気になったのだよ。そんなに、甘いものが好きだったか?」

「うーん、まぁ、甘いものも好きっスけど」

これは、どっちかっていうとね。手に持ったままだったフォークを一旦皿の上へと戻して、黄瀬は緑間を見つめ返した。

「緑間っちと一緒に食べれて、幸せだなぁ、って思ったからなんスよ」

にっこりと、黄瀬は微笑む。そうして、砂糖のたっぷり入ったケーキのような甘い声で囁いた。

「おは朝関係ないときでも、また俺を誘ってね、緑間っち」


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冒頭の、緑間を可愛いと思う黄瀬が書きたかっただけ。

2013.02.11.

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