※帝光。これの続き。


どうして、なんで。昨日からそればっかりが頭に浮かぶ。本当は眠いはずなのに、目を閉じると瞼の裏に、白い肌と豊満な胸、腰で結ばれていた下着の黒い紐が浮かんできて、夢の世界に逃げ込むこともできなかった。
二日目に突入した睡眠不足の中、いつもは時間をかけて編み込みやらお団子やらにする金髪を無造作におろしたまま黄瀬は教室へと辿り着いて自分の机に突っ伏した。運動場に面した窓の向こうからは朝練をしている生徒たちの元気な声が聞こえてくる。
昨日の放課後練に引き続き朝練までをも休んでしまった黄瀬は、どうして、と小さく呟きながら机にのせた腕へと額を押しつけた。



実るでしょうか




「黄瀬」

名を呼ぶ赤司の声に、黄瀬はがばりと勢いよく体を起こした。赤司は男子バスケ部の主将だけれど、時々女子バスケ部のエースである黄瀬にもアドバイスをくれる。厳しくはあるが、黄瀬の尊敬する人だった。だから、学校に来ているにも関わらず朝練に出なかったことを咎められるのだろうかと黄瀬は身構える。
その隣に立ち、赤司はふむと一つ頷いた。しばらく借りるぞ、と近くにいた紫原に告げた赤司は、黄瀬の白い手を引いて立ち上がらせる。え、と驚く黄瀬の後ろで、いってらっしゃ〜い、と紫原が間延びした声をかける。朝のホームルームがもうすぐ始まってしまうというのに、赤司はそのまま黄瀬を教室から連れ出した。
どこかざわざわと朝独特の騒がしさを有する廊下は赤司が歩くだけで静けさを取り戻し、その後ろを黄瀬が歩いていることには誰も疑問を呈さないようである。赤司に手を引かれるまま辿り着いた場所は保健室で、不思議なことに教諭は不在だった。座るように促されたソファに腰をおろす黄瀬を確認してから、赤司は出入り口に鍵をかける。

「あの、赤司っち……?」

正面に移動してきた赤司に胸元のリボンを解かれたことから、ようやく黄瀬は言葉を発した。どうしたのだろう、と赤司を見遣るも、美少年と形容するに相応しい顔に浮かぶ表情は常と変わらない。外されるボタンの音に、昨日の黒子とのことを思い出してしまう。

「これはまた、派手にやられたな」

上から三つめのボタンを外したところで、赤司は猫のように目を細めた。長い金髪に隠されていた首元はもちろん、形の良い鎖骨、白い胸に、赤いキスマークがいくつも散っている。うう、と首を竦める黄瀬のシャツのボタンを今度は留めてやりながら、赤司が口を開く。

「吸引性皮下出血。蒸しタオルを当てて血行を良くすれば、消えるのも早いだろう。次の仕事はいつだ?」

「来週、っス」

それなら影響しないで済むな、と赤司は呟いて、寸分の長さ違いもなく完璧にリボンを結んだ。保健室に訪れたときと変わらない、胸元のリボンだけは前よりも美しく整えられた格好になった黄瀬を満足気に見下ろす赤司に、金色の睫毛を震わせながら黄瀬は尋ねる。

「黒子っちは、私のことが嫌いなんスかね……?」

「どうしてそう思う?」

赤司は僅かに驚いた表情を浮かべて、黄瀬を見つめた。何故この少女は嫌われているなどと思ってしまったのだろうか。黄瀬の白い体にいくつもつけられた赤いキスマークは、感情を見せない黒子の独占欲、所有欲を目に見える形ではっきりと表しているというのに。
青峰に1on1 を挑む黄瀬を見る黒子の水色の瞳に浮かぶ嫉妬を、赤司は知っていた。一緒に帰る緑間、同じクラスの紫原、そして主将である赤司にもその感情が向けられていることも、知っている。

「私が男バスの皆に近付きすぎたから、黒子っちが怒っちゃったんス。私は女バスなのに、ちょくちょく男バスの方にお邪魔しちゃうし、黒子っちにも纏わりついちゃうし」

こうして考えてみると嫌われる理由も分かるっスね、と何を考えたのか涙を滲ませる黄瀬にハンカチを差し出しながら、赤司は深く溜息を吐いた。これでは黒子が報われない。何故好いている相手に嫌われていると勘違いをされる必要があるのか。それは黄瀬が恋をしたこともないような純粋すぎる少女で、黒子の言葉が足りずそして大事な段階をいくつか飛ばしてしまったことに理由がある。
いつも部のために尽くしてくれているマネージャーの恋の成就を願って、赤司は柔らかく言葉を紡ぐ。

「黒子は、黄瀬のことを嫌ってはいない」

「……ほんとっスか?」

「俺が嘘をつくと思うか?」

本人に直接訊いてみろ、そう言う赤司に戸惑いながらも、黄瀬はゆっくりと頷いた。
赤司が嘘を言うはずは無い。黒子が黄瀬を嫌いでないというのなら、何なのだろう。僅かな好奇心と、これからも黒子と友達でいたいという思いが、黄瀬の胸の中をじわじわと満たしていった。


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女バスエースの黄瀬ちゃんと男バスマネの黒子さんを見守る男バス主将の赤司くん。

2013.01.20.

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