ラブジュエル



「俺の目が好きなのか」

赤司が黄瀬に問うたのは、柔らかな秋の日差しが入り込む教室でのことだった。試験期間中のため部活は無く、いつもは賑やかに生徒で溢れている広い教室には、赤司と黄瀬の二人だけだ。どうしても分からないところがあるから教えて欲しい、と黄瀬に乞われて、赤司はこうして放課後の学校に残っている。
自分から誘ったというのに、黄瀬の視線は机の上にある教科書やノートよりも、赤司に向けられていることの方が多かった。穴が開くのではないかというほど見つめられれば、さすがに赤司も気になってしまう。今日だけじゃない。ここ一カ月ほど、黄瀬は暇さえあれば赤司の目を見ていた。

「うん、好きっスよ」

窓から差し込む光を受けてきらきらとした双眸を緩やかに細めながら、黄瀬は言う。ゆっくりと持ちあげられた黄瀬の白い手が赤司の頬に伸び、親指が確かめるように薄い瞼を撫でた。

「赤司っちの目、ルビーみたい」

赤い宝石の名を口にして、黄瀬は微笑む。好き、ともう一度言葉にして、黄瀬は赤司から手を離した。蕩けそうな蜂蜜色の双眸は、まだルビーの瞳を見つめている。





それが強く印象に残っていたものだから、赤司はだんだんと赤味の薄くなっていく左目を少しだけ残念に思っていた。ルビーのような赤い目が好きだと言った黄色い子供は、がっかりするだろうか。もう興味はない、とそっぽを向くだろうか。蠱惑的に潤む蜂蜜色の瞳をもう見れないことを思うと、寂しくもあるし口惜しくもある。





再会したのは、ウィンターカップの会場だった。再び会えた喜びに手を取り合うこともなく踵を返した赤司の腕を、追って来た黄瀬が捕まえる。赤司っち、と呼ぶ声は、変わることなくどこかに甘さを含んでいた。

「……涼太」

無意識に視線を下げる赤司の顔をゆっくりと上向かせて、黄瀬は微笑む。とろり、と音をつけたくなるほど、その黄金色は濃さを増していた。
伸ばされた指が、赤司の瞼をなぞる。そこに眼球があることを確認するようにゆっくりと、痛くないように加減をしながらもしっかりと、黄瀬の右手が赤司の左目を瞼の上から撫でている。

「きれい」

そう呟く口角の上がった唇を右目だけで見て、赤司は首を傾げた。

「お前が好きなのは、赤い目じゃないのか」

徐々に赤味を無くしていった赤司の左目は、今では黄色に近い。目の前の黄瀬が持つ瞳よりも色の薄いものになっていた。どうせなら黄瀬と同じ色になればいいものを、と赤司は思う。

「俺が好きなのは、あんたの目っスよ。赤いのが好きなわけじゃなくて、赤司っちの目だからいいの」

うっとりと、宝物でも見つけたかのように蜂蜜色の双眸を満足気に細めて、黄瀬は呟いた。

「右がルビーで、左がトパーズっスね」

宝石の名を零した唇が、淡い黄色の瞳を覆う瞼へと触れる。ちゅ、と小さく立てられたリップ音に、赤司はゆっくりと口元を綻ばせた。




2012.12.11.

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