※帝光。黄瀬視点。

お返し


まだ夏の暑さが残る九月。全中で優勝した興奮も覚めやらぬままに、新学期に入っても厳しい練習は続いている。休日の今日も朝から練習があり、ミニゲームを終えて短時間の休憩に入ったところだ。
黒子っちは体育館の床に横たわったまま動かないし、青峰っちは壁に凭れて水分補給してる。紫原っちはぎりぎり体育館に入らないところでお菓子を食べていて、緑間っちは桃っちと何か話していた。それぞれに休憩時間を過ごしている面々を横目に見ながら体育館を出る。タオルで拭いただけじゃたっぷりと流してしまった汗の気持ち悪さは消えなくて、思いっきり水で流したくなったのだ。
蛇口から勢いよく出る水でうがいをして顔も洗い、まだ使っていないタオルに顔を埋める。ふかふかのそれが気持ちよくてまた部活頑張ろうって踵を返したときに、木陰に立つ赤司っちが目に入ってきた。何か、目の辺りを気にしているように見える。

「赤司っち?」

駆け寄ってみると、赤司っちは左目を擦っていた手を止めて右目だけで俺を見た。

「黄瀬」

「擦っちゃダメっスよ。目、どうかした?痛いの?」

「睫毛かゴミが入った」

生理的な涙で、赤司っちの長い睫毛が濡れている。片目だけで見つめられるというのも妙な感じだ。夏のような蝉の鳴き声が落ちてくる中、赤司っちの顔を覗き込んだ。

「左目、開いてみて?」

「無理だ」

「じゃあ、俺が」

左手を赤司っちの頬に添えて固定する。右手で優しくゆっくりと瞼を押し上げてみると、柘榴のように綺麗な赤い色が現れた。睫毛は見当たらない。だとすれば、原因はゴミだろうか。

「赤司っち、まだ痛い?」

「あぁ」

「……ちょっと我慢してね」

少しだけ屈んで、瞼を開かせたままの赤司っちの左目を舐める。ペロリ、というよりはベロリ、というような音が正しいかもしれない。柘榴色は見目とは違ってやっぱり甘くはなくて、涙のせいかほんのちょっとだけしょっぱかった。つるりとした何ともいえない感触を舌に残したまま、赤司っちから手を離す。

「どうっスか?」

何をされたか分かっていないような顔が、年齢よりも幼く見えて可愛い。いつも扱かれてる主将にこんな顔をさせたのだと思うと、少しだけおかしくて笑ってしまう。写真にでも撮っておきたかった。

「赤司っち?」

「……食われるかと思った」

そう呟いて、赤司っちは今度はちゃんと両方の目で俺を見た。柘榴のように艶々とした赤色に、俺の顔が映り込んでいる。

「えっと、ごちそうさま……?」

首を傾げて言う俺に、赤司っちは一つ溜息を吐いた。
ぐいっと思いっきりシャツの胸元を引かれれば、目の前にバランス良く開かれた口が現れる。カプリ、と俺の鼻の頭に軽く歯を立てると、赤司っちは少しだけ満足そうに瞳を細めてみせた。

「お粗末様でした」

ゴミを舐め取った口は漱いでおけ、と言い残して、赤司っちは木陰を出て行く。
歯型の残った鼻を押さえる俺の頭上では、一瞬だけ鳴き止んでいた蝉が再び合唱を始めていた。





2012.11.17.

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -