※帝光。青峰視点。 黄瀬厨っぽい赤司。黒黄に巻き込まれる青峰。 |
「付き合うことになったっス」 1on1で火照った顔を嬉しそうに綻ばせながら報告してきた黄瀬に、片手でボールを弄んでいた俺は、それは良かったなと一言返してやった。 「それだけっスか?」 不満そうに頬を膨らませる黄瀬は身長180cmを超える男子中学生にしては可愛らしく、汗で湿った金色の髪をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でれば、ゆるりと飴色の瞳が細められる。その様はまるで犬や猫のようだ。 「テツとだろ?図書館にでも行くのか、あ、お前の買いものか?」 テツに付き合って行くなら図書館だろうが、黄瀬に付き合うのならば買いものか。そう結論付けて尋ねた俺を見上げる黄瀬はきょとんとした後に、違うっスよぉ、と柔らかい声を上げた。 「そっちの意味じゃなくて。恋人になったんス、黒子っちと」 「はぁ?恋人?お前と、テツが?」 「うん」 にっこりと、黄瀬は頷く。ようやく意味を理解して、そして俺はテツを憐れんだ。 黄瀬の性に関する知識は、生まれたての赤子と同じようなものである。周りがどういう育て方をしたのかは知らないが、親にも事務所にも大事にされているのであろう。下ネタも解さず、そのような欲も薄いというかほぼ無いように思える。 テツはそれとは反対に、淡白そうに見えても思春期真っ只中の男子中学生だ。赤司曰く“ぴゅあぴゅあ天使”の恋人を持つ辛さを想像し、そして同情する。 「まぁ、仲良くしろよ」 鼻の頭を掻きながらそう言えば、元気な返事が返って来た。 小悪魔エンジェル 「ねぇ、青峰っちってキス上手い?」 爆弾が落とされたのは、テツとの交際宣言を聞いてから二週間後。これもまた1on1中のことだった。 俺のシャツの裾を引っ張りながら瞳をきらきらと輝かせて尋ねてくる黄瀬に、自然と眉間に皺が寄る。 「んなの聞いてどうすんだよ」 「練習したいっス。それで上手くなって、黒子っちに褒めてもらいたい!」 やっと息継ぎが上手くできるようになったんスよ、とそんな話は聞きたくなかった。というか、バスケ一筋彼女のいたことのない俺はキスなんてもんはしたこともない。黄瀬の話を聞く限り、唇と唇が触れ合うだけのレベルはとっくに超えてしまっているようだ。 「……俺はパス」 「え〜、青峰っち教えてくれないの?」 不満そうに唇を尖らせる黄瀬はしばし考え込んで、そして名案が浮かんだという風に手を叩く。 「赤司っちなら」 「それはやめろ!」 黄瀬の言葉を遮って、俺は頭を抱え込んだ。ぴゅあぴゅあ天使黄瀬を溺愛している男子バスケ部主将にこんなことが知れたら、どうなるか想像もつかない。 唸る俺の顔を覗き込む曇りない飴色の双眸が、不思議そうに揺れていた。 ◇◆◇ さくらんぼの茎を渡して解決したと思った災難は、それから一か月後再び俺に降りかかる。1on1後の部室で制服に着替えていた俺に近寄ってきた黄瀬は、僅かな身長差だというのに上目づかいでおねだりするように首を少しだけ傾げてみせた。 「コンドームの付け方、練習させてくれないっスか?」 コンドーム?と一瞬それが何を指す単語か分からなくなったのは、あの黄瀬が避妊具の名称を口にするなどと思わなかったからだ。お前のぴゅあぴゅあ天使はいつの間にかこんなことになってるよ、と現実逃避する頭の片隅で赤司に語りかけつつ、青峰っち、と袖を掴んでくる黄瀬と視線を合わせる。 「自分ので練習しろよ。何でわざわざ俺に頼むんだ」 「自分のと人のじゃ違うじゃないっスか。黒子っちに付けてあげたいんスよ」 息が詰まった気がした。俺を見上げてくる黄瀬の、形の良い唇の隙間から柔らかそうな赤い舌が覗いている。飴色の瞳はいつもより水分を含んで、深みを帯びて揺れていた。 (何か、こいつ、) エロい、とそういう感想を抱いてしまって、思いっきり首を振る。 赤ん坊のように純粋無垢な黄瀬はどこに行った。テツが一から恋人同士でする行為を教え込んでいるのだ、と黄瀬の表情から生々しく知ってしまう。こんな顔は、テツと付き合う前にしたことはなかったはずだ。仕事で撮ったのだと毎回押しつけられる雑誌のグラビアでも、子犬のような無邪気な表情しか見たことはない。 ねぇ、と再び袖を引く黄瀬に溜息を吐いて、そして一言だけ呟いた声は掠れていた。 「……良い感じの大きさの、棒持って来い」 ◇◆◇ 「何か疲れてますね、青峰君」 テツに喋りかけられ、誰のせいだ、と半ば睨むようにして随分と下にある顔に視線を遣った。正面のコートでは、ミニゲームに参加している黄瀬が緑間に3Pシュートを決められ悔しがっている。 「どうかしたんですか」 「……どうもしねーよ」 溜息と共にそう吐き出すと、テツはビー玉のように透き通った水色の目を僅かに細めてみせた。口端をゆるく持ち上げ、小さく息を漏らして笑う。 「黄瀬君に色々教えてくれたそうですね」 「知ってたのか」 「はい」 そこで一度言葉を区切って、テツはいつもの無表情が嘘のようにどこか挑戦的に俺を見上げてくる。 「可愛かったでしょう、僕の黄瀬君」 にっこりと、笑みと共に紡がれた言葉に、もしかしたらテツに遊ばれていたのかと気づいたのはそれから数秒後だった。 2012.10.13. |