「俺の美意識が許さねーんス!!」
((((美形のマジギレ顔、超コワイ))))
 外の麗らかな秋の日差しは遠く、このテーブルには一足早い冬の嵐が吹き荒れていた。


『森山由孝がファッション修行に乗り出すまでの経緯について。報告:笠松幸男』


 今日は部活の休養日。例によって何かと絡んでくる金色エースと、ら行の不自由な2年スタメン2人の誘い(というか騒がしさ)で、都内に遊びに出ている。バッシュ見たい組と、本屋寄りたい組に途中分かれ、ファミレスに集合したはいい。黄瀬が目立たぬよう、端の席なのもいつも通りだ。(そもそもスポーツ用品店の多いこの界隈は、女子のミーハーファン層が少なくて助かる。バスケ少年に握手を求められるのは、黄瀬も面映ゆそうながら嬉しそうなので和むし。)しかし、黄瀬が堪えきれない、といった様子で森山のファッションに言及したのが始まりだった。
「森山先輩、あのー・・・今日はその格好・・・というか、セーターの色、どうしたんスか?ひょっとして・・・」
 確かに、今まで着ているのを見たことがないなかなか目立つピンクである。まあ、私服を見る回数など知れているので、不確かなものだが。
「おお、よく聞いてくれたな!コレはおは朝の・・・」
「言わせねえっスよ!?やっぱり・・・今朝おは朝見てイヤな予感したんスよ・・・」
 おは朝・・・とは無茶振りで有名な占いで最後を閉める朝の情報番組のことだが、今日は土曜で土曜バージョンが放映されていた。
 と言うか、黄瀬は何で森山の星座を把握しているんだろうか。女子か!と思いつつ、笠松は面倒で放っておく。
「え?何のことだ?」
「あー・・・有名なおは朝占いのこと?」
 ハテナマークを浮かべた早川に、小堀が自信なさげに教えてやっていた。
「そうっス!ピンクのカシミヤ製品で恋愛運絶好調、気になるあの子と接近できるチャンスって!」
 うざい行動になるのが目に見えた占い結果だな、と思わざるを得ない。
「ピンクは女子受けもいいってネットにあったしな。」
「てか、それカシミヤなのかよ・・・」
 無駄に坊ちゃんの片鱗さらすなよ、と笠松はため息しか出なかった。
「おう。占いに従ったからな。さすがに自前じゃあ持ってないし、家族もピンクのカシミヤなんて持ってないって言ったから、じいさんが忘れてったの借りた。」
「はあ!?もう何してんスか!」
 森山の祖父と面識があるらしい黄瀬は、片眉をぐいとあげる。
「カシミヤ製品なんてコーコーセーは持ってねーよ。サイズ変わるし。」
「そういうことじゃないっスよ!もう。その色、先輩に似合ってないっス。ラインも体に合ってない!」
「黄瀬、そ(れ)は言いすぎだぞ!先輩に失礼(しつ(れ)い)だろ!」
「早川も似合わないってこと、こぼしちゃってるような・・・」
 森山に対してはっきり言ってのけた黄瀬に続いて、早川、小堀もぼろぼろ本音が出ている。
「ちょ、ヒド!じいさん泣くよ!?」
「おじいさんはきっと差色とかにして上手に着こなすと思うんス。てか、年いってから華やかな色着ると、うまく入れればすごくおしゃれだし。」
さすが面識あるだけあって、自信ありげに黄瀬は断言する。話に聞いたところでは、上品な老紳士とのことだが。
「そうなの?うちのじいちゃんにも薦めてみようかな。」
「是非!似合う色選んだげて下さいっス!」
 小堀のおっとりとした呟きに、黄瀬は満面の笑みを浮かべたので、そのまま流されるかと思いきや、またキリッと怒りに眉をしかめて森山に詰め寄った。
「森山先輩は着るんならもっと淡目で青みよりのピンク!それに初めてチャレンジする難しい色は面積小さいのから!もう!もう!」
 何がそんなに腹立たしいのか、黄瀬は興奮でうっすら頬が赤く染まるほどになっている。
「落ち着けよ。森山が残念なのは今更だろ。」
「ちょ、笠松が一番酷い!」
 わっ、と泣き伏す森山を無視して、笠松はウーロン茶をストローですする。
「・・・だめっス」
「は?」
「どうした?黄瀬。」
 黄瀬の真向かいに座る小堀が、心配げにうつむく黄瀬の顔を覗き込む。
「・・・そんなの、だめっス。ファッションは−・・・服は、その人を素敵に見せるもの着ないと!」
「「「「・・・は?」」」」
 およそ高校生男子の台詞とも思えない発言に、思わず全員で聞き返した。
「確かに、流行とか、ドレスコードとか、季節感とかいろいろあるっスよ?俺たちモデルは『服をきれいに見せるため』に『服に合わせる』努力するけど、普通は逆。『自分を素敵に見せるため』に、『こんな人ですよ』ってわかってもらえるように選ぶもんスよ!」
「「「「おおーーーー」」」」
 モデルというとチャラいなんて思いがちだが、こいつがなんだかんだ言いつつ真面目に仕事しているのは知っている。しかし、俺たちに服のことでこれだけ力説したのは初めてだった。
「なるほど・・・確かに。」
 森山も頬杖をついて納得した風に頷いた。
「森山先輩、制服もいつもきれいにしてるし、肩とか袖丈とか、身長高めで細身だから合わせるの大変そうな割にきちんと合ってて、育ちよさそうって風だし・・・それに、外見(そざい)もいいんスから、ね?」
 ニコ、とそれはそれは美しい笑顔になった黄瀬に、薄ら寒いものを感じた。
 そして。冒頭に至るわけである。

 しかしその後、恐怖のブリザードを吹き荒れさせた黄瀬によるファッション修行が課せられることになったくせに、森山が何だかニヤけた顔をしていたので、ちょっとした恐怖で(輪をかけて)おかしくなったのか、それとも、おは朝が正しく威力を発揮したのか・・・(だとしたらおは朝侮れねえ)と思ったのは秘密にしておく。


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沙希さんにED差し替えネタの可愛い海常を頂きました。


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