※帝光緑黄。

霜月にもなれば、部活が終わると外はすっかり暗くなっている。おは朝の後の天気予報では、今季一番の冷え込みになると気象予報士が言っていたはずだ。街灯と、走る車のヘッドライトだけが暗闇に明るさをもたらす中で、時折呼気が喉につっかえるような小さく高い音が聞こえる。
緑間の隣を歩いている黄瀬は、モスグリーンのマフラーに鼻まで埋めていた。寒いからだろう。危ないと分かっているのに、その両手は制服のポケットの中へと入り込んでいる。
ちょうど着替え終わる頃にしゃっくりの出始めた黄瀬は、緑間と共に部室を出るまでは喋っていたが、校門まで半分の距離を過ぎた時には完全に口を噤んでしまっていた。間隔の短いしゃっくりで、喋っていると呼吸も辛くなるし、話している内容も途切れてしまうから、と。黄瀬の眉間には小さく皺が刻まれて、モデルだというのに少しだけ丸まった背中が、不機嫌さを露わしているようだった。
その様子を横目に見遣ってから、緑間は考える。しゃっくりの止め方。つい先日、幼い妹はしゃっくりを止めようと奮闘して、母に背後から驚かされていた。
緑間は歩みを止め、それと同時に隣に手を伸ばす。くすんだ緑色のマフラーを引っ張り、今まで隠れていた唇が現れると口付けた。荒れることなどない手入れされた唇に、少しだけ乾燥した己のそれをぴたりとくっ付けて、一秒、二秒とゆっくり数える。三秒目で唇を離して、引いていたマフラーも手放すと、黄瀬は瞬きを忘れたかのように蜂蜜色の瞳を瞠っていた。

「止まったか?」

緑間は訊いてやる。緩んでしまったモスグリーンのマフラーを再び巻きなおしてあげながら、数センチばかり背の低い相手を覗き込む。

「な、にが」

「しゃっくりだ。止まっただろう」

薄暗い中でも、黄瀬の頬が朱に染まっていくのが分かる。

「……いつもは外でこんなことしないじゃないっスか。不意打ちとか何なんスか。しゃっくりは止まったけど、俺の寿命はいくらか縮んだっス。責任とってよ、もう」

と、一息で言えるくらいなら確かにしゃっくりは止まったのだろう。
鼻ばかりか頭までマフラーに埋めてしまいそうな黄瀬を見て、緑間は満足気に笑う。寿命が縮まった分だけ、また延ばしてやるのだよ。と、遠い未来のことを思っている。


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帝光黄瀬くんにはモスグリーンのマフラーが似合うという謎のこだわりがある。

11/19〜12/23(2013)
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