※安定の捏造。

『とっても可愛くて優しい子がいて俺のひとつ上だったんですけど、それが初恋ですかねぇ。女の子なのに百獣の王様の"レオ"って名前がかっこよくて。俺が小学校入る前に引っ越しちゃったから、今どうしてるかは分かんないんですけど……』



雑誌のインタビューで初恋の思い出を訊かれて答えたのが、薄らと日々の記憶に塗り潰され始めた頃。その人は突然、黄瀬の前に現れた。

「黄瀬ちゃん」

黒髪の艶やかな、至近距離でなくても睫毛の長いことが分かる男に声をかけられて、黄瀬はぱちりと大きく瞬いた。赤司の後ろにいて、赤司と同じ制服を着ているということは、彼はきっと洛山の生徒なのだろう。
次に、黄瀬はゆっくりと首を傾げる。洛山は京都の学校で、生まれも育ちも東京である黄瀬の知り合いが赤司以外にいるはずもない。もちろん、京都には親戚もいない。
それに、この男ほど見目が整っているならば、煌びやかな芸能界に足を突っ込んでいる黄瀬の印象に残らないことの方がおかしい。
柳眉を顰めて考え込む黄瀬を見て、男は目を細めた。役者のような優美な動きで右手を己の頬に添えながら、一歩踏み出して黄瀬に近づく。

「何年も前のことだもの。忘れちゃったわよね」

少しだけ悲しそうな顔で、美人さんになって、と長らく会わなかった親戚のようなことを言われても、黄瀬には全く覚えがない。
クエスチョンマークをいくつも頭の上に浮かべている元チームメイトを見かねて、赤司が助け船を出した。徐々に黄瀬に近づいて、お肌もすごく綺麗ね、触ってもいいかしら、と尋ねている現チームメイトの名前を呼ぶ。

「玲央、涼太が困っているよ」

昔馴染みだと自己紹介でもしたらどうだい。その言葉にようやく、黄瀬は目の前の男が誰かに思い至った。
確かに、初恋の子の面影はある。けれどあの子は女の子だったはずで、目の前にいるのはどう見ても男で、あれ、でも、しゃべり方はちょっと女の人のような……。
答えが出ても戸惑うばかりである黄瀬に向かって、にっこりと実渕は微笑みかけた。

「お久しぶりね、黄瀬ちゃん。私との約束覚えてる?」

そうやって実渕が差し出したのは、小さなおもちゃの指輪。金色の輪っかにプラスチックで出来た赤色の宝石がくっついている。
ようやく、黄瀬は全ての記憶を思い出した。確か、幼い黄瀬は十六歳になったらみんな結婚出来るものだと思っていて、姉から貰ったおもちゃの指輪をそのまま引っ越して遠くに行ってしまうレオちゃんに渡して告白したのだ。

『じゅうろくさいになったらおれとけっこんしてください』

幼い弟のような存在に拙いプロポーズをされたレオちゃんは、少しだけ考え込んで答えてくれたんだっけ。

『けっこんしてもいいけど。だんなさんはわたしで、きせちゃんがおくさんね。あなたがじゅうろくさいになったらむかえにいくわ』

そうだ。年齢に見合わない随分と大人びた話し方で、レオちゃんはそう言っていたのだった。
初恋の淡い思い出の真実が明らかになって、混乱している黄瀬の左手を取りその薬指に唇を寄せながら実渕は美しい笑みを浮かべた。

「少しだけ遅くなっちゃったけれど、迎えに来たわ。よろしくね、私のお嫁さん」

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実黄がブームだった頃のネタお蔵出し。

10/22〜11/19(2013)
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