※黄瀬家長男の得意料理とは。

今をときめくモデルであり、海常高校男子バスケ部エースでもある黄瀬涼太の得意料理は、ハンバーグである。それも中にたっぷりとチーズの入っている、チーズインハンバーグなのだ。これは、見れば大抵のことは出来る、という彼が二人の姉に強制的にといってもいいほど特訓させられた結果といえる。
その当時も今も理由はよく理解っていないが、とにかく男は胃で掴め!というのが姉たちからの助言であった。そもそも黄瀬は胃を掴まれる側であるというのに、小さい頃から黄瀬を着せ替え人形にし、おままごとのペット役にし、と遊んできた彼女たちには微塵も気にするところではなかったのだろう。とりあえず食べ盛りの男にはハンバーグだ、と呟きながら挽肉を捏ねていた姉たちの姿はどこか恐怖じみたものをもって黄瀬の脳裏に焼き付いている。



そんな黄瀬の得意料理を披露する機会が訪れたのは、インターハイが終わって少しばかり経った日のことだった。
場所を提供するので勉強教えてください、という黄瀬の頼みは一人暮らしの部屋を見たいという森山の好奇心と、良心の固まりである小堀によって何の障害もなく受け入れられた。そこに、食料提供すうのでおえたちもいっしょにいいですか、と乗っかったのが早川と中村で、おまえ等がいくのなら、と引率の先生のような気分で参加することになったのが笠松である。
セキュリティのしっかりとしたマンションに三年生三人がお邪魔した三十分後に、買い物袋を提げた二年生組が到着した。袋の中身はまさかの合挽き肉+αで、ハンバーグ食べたいと主張した早川と、全員分のハンバーグは作れると思います、と冷静に述べた中村は、笠松の手により近所迷惑にならない程度にシバかれることとなった。
時間は午前十一時半。腹ごしらえをしてから勉強に取りかかった方が効率はいいだろう、という森山の提案に皆は頷いた。俺料理できないけど、と小堀が言えば森山と笠松、果ては材料を調達してきた早川と中村までもが右に倣い、視線は自然と黄瀬へ集まった。

「あ、じゃあ俺作るっスよ」

あの姉たちによる特訓はこの日のためであったに違いないと黄瀬は確信する。ちょうど冷蔵庫の中には、父がフランス出張みやげに買ってきたチーズが入っている。あのチーズならばハンバーグの中で美しく溶けてくれるだろうと思って、黄瀬はゆっくりとエプロンを身に着けた。
先輩たちは座っていてくださいと促し、さりげなく好き嫌いも確認してから調理に取りかかる。家族が来たとき用と来客用にと食器の数も十分に揃っているから、何も心配する事は無い。



ジュウジュウと音を立てるハンバーグを皿に盛り、手早くソースを作ってかけて、買い物袋に一緒に入っていたミニトマトとレタスを添えれば、男子高校生が作ったにしては立派な昼食が出来あがった。炊き立てのご飯はつやつやと輝いて、豆腐とわかめの味噌汁が出てくるのも家庭的といえる。
いただきます、と大きな声が重なって部屋に響いたのを合図に、黄瀬以外のメンバーは箸を持ちメインであるハンバーグを吟味し始めた。黄瀬はというと箸を持つこともせず正座をしたまま、先輩たちの反応を待っている。
姉直伝のトマトソースがかけられたハンバーグは箸がすっと通り、断面から肉汁と溶けたチーズが溢れ出した。中にチーズが入っていることに歓声が上がり、一口目を口に入れればまたもや驚きの声が漏れる。

「なんだこれ、美味い」

上品にハンバーグを口に運んだ森山がそう呟けば、となりの笠松が無言で頷き、小堀が黄瀬を見て

「すごく美味しいよ」

と微笑んだ。

「おえがいままで食べた中で一番美味いチーズインハンバーグだ」

と両頬を膨らませながら言ったのは早川で、

「このハンバーグが食べれるなら黄瀬と結婚してもいいです」

と本気なのか冗談なのか判断のつかない顔で中村が告白する。

「ほんとにうめぇ」

と笠松が噛み締めながら言うと、後は各々食事に集中し始めた。
一人一人から感想をもらい、たっぷり時間をかけて反芻してようやく、黄瀬の頬が朱に染まる。なにこれ恥ずかしい、と両手で頬を押さえてみるもどうにもならない。
男は胃袋で掴むのよ、と言った姉の言葉が頭に蘇り、大好きな人たちがこんなに喜んでくれるのならば、他のものも作ってあげたいと思ってしまうのも当然だ、と黄瀬は何となく女心というものが分かったような気がしたのだった。


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いっぱい食べる君が好き。

10/22〜11/19(2013)
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