虎猫


虎のように縞のある尻尾が一つ先の曲がり角に消えたのを見つけて、黄瀬はそれを追いかけて駆け出した。夏休みも明け、長期休暇の時間軸がようやっと通常に戻って来た九月も末のことである。夕刻とはいえまだ残暑は厳しく、額に浮かぶ汗を拭いながらの下校中であった。
黄瀬は動物が好きである。けれども母親が動物アレルギーで、動物と戯れることが出来るのは家の外だけに限られていた。散歩中の犬がいれば近寄り、お昼寝中の猫がいればずうっと眺めているくらいには好きなのである。
曲がり角を曲がると、黄瀬を待ち構えるようにして細い道の中央に猫が座っていた。成猫にしても大きく見えるような立派な猫だ。虎のような模様が可愛らしくて、黄瀬はそろそろと近付いて手を伸ばす。黄瀬の手のひらに擦り寄るようにして、にゃあんと鳴いた猫の声が確かに聞こえたはずだった。
瞬き一つの、一秒にも満たない間に猫は赤い髪の男へと変わっていた。赤司の髪色とは違い、夜の闇をいくらか加えて混ぜたような赤紅をしている。鋭い目は、まるで虎のような肉食獣を想像させた。
またか、と黄瀬はどこか慣れてしまった頭の片隅で呟いた。もう何回目になるだろう。どうせこの後、唇を奪われて、それからはよく覚えてはいないのだけれど、起きたら何とも言えない倦怠感と腰の痛みと甘ったるい感覚に悩まされることになるに違いない。心のどこかで覚悟を決めて、自分と同じように地面に膝をついている男を見遣る。ジーパンとVネックのシャツに包まれた体はがっしりとしていて、けれど虎のようにしなやかに動くのだろうなと想像できた。
男の節ばった手が黄瀬の首筋を撫でていく。汗をかいている体に温度の高いその手は不快であるはずなのに気持ち良くて、黄瀬はゆっくりと目を閉じる。閉じた目には何も見えないけれど、男の体がぐっと近づくのが分かった。熱い息が首筋にかかる。制服の下に入り込んだ手に気を取られている間に、ちょうど喉仏の辺りを舐められるのが分かった。熱くて溶けそうな舌が這い、固いものがぐっと押しつけられる感触がする。あぁ、噛まれる、とそう思った。





にゃあ、と可愛らしく鳴く猫の声に黄瀬の意識は浮上した。小道の真ん中に横たわっている黄瀬の横に、緑の目をした黒猫が座っている。
あぁ、また変な夢見ちゃったんスね。熱を持っていた道に寝そべっていた体がひりひりする。もしかしたら、ちょっとした火傷になってしまったかもと思いながら黄瀬は立ち上がった。それを見届けて、黒猫はどこかに去って行く。
いくら周りを探しても、虎のような猫はどこにも見当たらなかった。








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