※森黄っぽい。

すい、へー、りー、べ、とどこか舌足らずに呟かれる言葉に、森山は目尻を下げた。目の前に座る黄瀬は一生懸命に、化学の教科書を見つめている。整った顔の眉間には、皺が一つ刻まれていた。
勉強を教えて欲しいと言う後輩の頼みを断ることなど森山には出来ない。小テストがあるのだという周期表の語呂合わせを教えてやれば、周期表と睨めっこしながらぼそぼそと何かの呪文のように呟いている。元素記号と文字の組み合わせに慣れないのか、舌っ足らずになっているのがお馬鹿っぽくて、それがまた可愛い。
緩んでしまう口元を手で隠しながら、これが親ばかというやつか、と考え始める森山の正面で、黄瀬がパタンと軽い音を立てて教科書を閉じた。

「覚えたか?」

「はいっス、たぶん」

「それじゃあ、一つずつ言ってみようか」

黄瀬の教科書を手元で広げて促した森山に向かって、黄瀬は言う。あ、森山先輩、と紡ぎ出される言葉は弾んでいた。

「二十個全部言えたら、帰りに1 on 1して下さいっス」

いいよ、と答える森山を見て黄瀬は嬉しそうに表情を崩す。さっきまで眉間に寄っていた皺は完全になくなって、綺麗な微笑が現れる。
水素、ヘリウム、リチウム、と一つずつ指を折って口にしていく黄瀬を、森山は見つめる。元素記号を二十個全部言えなくても、1 on 1くらいいつでも相手になるつもりだ。可愛い後輩の願いなら、それこそ何でも叶えてあげたいのだから。


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周期表は中学生で習ったような…?と、拍手にして随分と経ってから思い出しました。

4/20〜6/29(2013)
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