※フェチシリーズ

love via bone


美しく切り揃えられた爪の先から指、手の甲、手首までをゆっくりと撫でた緑間の左手は、そのまま腕を這って肘に触れ、肩から鎖骨へと移動し、薄い皮膚の下にある骨の形を確かめるようになぞった。くすぐったい、と黄瀬が身を捩るのも構わずに、緑間の手は動く。出っ張った喉仏を優しく掠め、顎、頬、鼻、額へと順に上っていき、金色の髪を梳いた。旋毛の辺りから項までを、時間をかけて触られる。撫でるというには不自然すぎる動きは、緑間の体温を黄瀬の髪へと伝えながらじわじわと体の中へと侵食していくかのような居心地の悪さを感じさせた。

「……あの、緑間っち?」

耐えきれなくなって、黄瀬は目の前にいる男の名前を呼ぶ。久しぶりに会いに来たかと思えば挨拶もそこそこに黄瀬の足へと手を伸ばした緑間に、どんな反応を返せばいいかも分からず好きなようにさせていたのだけれど。黄瀬の足の先から頭のてっぺんまで触れていく緑間の表情は至って真剣で、まるで触診でもされているような気分だった。
名前を呼ばれたことで緑間は一つ瞬きをし、それからゆっくりと口を開く。

「お前の骨は綺麗だな」

緑間の耳に心地よい声には、いつもと違って僅かに高揚した響きが混じっていたが、黄瀬がそれに気付くことはなかった。緑間の発言に気を取られたからである。
『ほね』という二音が耳から入って脳内に辿り着く。唐突に現れた『ほね』という単語を日本語だと判断するのに五秒、それを『骨』という小学校で習う漢字へと変換するのに二十秒を要し、たっぷりと時間をかけて緑間の発言を理解した後に、黄瀬は困って首を傾げた。みどりまっちがおかしなことをいっている。
容姿については褒められ慣れている黄瀬であるが、骨が綺麗だ、と言われたのは初めてのことだった。緑間に褒められることは嬉しい。でも、骨ってどういうことなのだろう。素直に喜べずに戸惑う黄瀬の項から下へと背骨を一つ一つ指先でなぞりながら、緑間は言う。

「何百体の骸骨の中に黄瀬の骨が紛れていても、俺はその中からお前を見つけることができる」

ぞわり、と背中の皮膚が粟立った。それは、情事のときのように背骨を触られているせいなのか、緑間の発言が予想もしなかったものだったからなのかは分からない。
おは朝を信奉していると知った時も相当マニアックだと感じたけれど、まさかそれ以上のことを知ることになるとは思わなかった。普通なら引いてしまいそうな恋人の言葉を聞いて、黄瀬は緩やかに口端を上げる。初めは分からなかった意味がゆっくりと頭に沁み込んできて、胸の奥から湧いて出るような喜びを生み出していた。色々な人から美しいと褒め称されるこの身目でなくなっても、緑間なら愛してくれる。誰にも見分けのつかないような存在になったとしても、緑間なら黄瀬を見つけてくれるのだ。
背骨から手を離して肩甲骨に触れようとした緑間との距離が近づく。翡翠の瞳に映る己は幸せに蕩けそうな表情をしていて、それを見た黄瀬はやんわり微笑むと緑間に唇を寄せた。



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書いてるうちにおかしな方向に……。

2013.06.08.

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