※帝光。二人とも女の子。


ふぁ、とあくびを噛み殺しながら黄瀬は軋んだ音をたてる古い引き戸を開けた。旧校舎の視聴覚室は先日の学内大掃除の範囲であったのだろう、綺麗に掃除されて目立つ埃も積もっていない。重くて分厚いカーテンは日中だというのに部屋の中に入り込む光を大幅に遮って、今にも黄瀬を夢の世界へと連れて行ってくれそうだ。
黄瀬はとにかく眠かった。昨夜は仕事の時間が押してしまったことと撮影場所が遠かったこともあって予定より随分と遅い帰宅になってしまい、十分な睡眠がとれていない。朝練だけはしっかりとこなし授業もきちんと受けようとしたのだけれど、五時間目が終わったところで限界がきてしまった。
遠くの方で鳴るチャイムが聞こえるのにも構わずに、黄瀬は固めのカーペットにブレザーを敷き、全身を横たえる。放課後の部活の時間までに、少しだけでも寝ておきたかった。ちょうど始まった六限目の授業はサボってしまうことになるが、大好きなバスケの途中で倒れたりしたらもったいないし、チームメイトに迷惑をかけることにもなる。
随分と前に使われなくなった旧校舎の一番端にある部屋は、人の気配などなくしんと静まり返っていた。ときたま聞こえてくる小鳥の囀りが子守唄となり、ゆっくりと目を瞑る。数える間もなく、黄瀬は眠りに落ちた。



花は散りました




誰かに見られている、そんな視線を感じて黄瀬は意識を浮上させる。どれくらい眠っていたのだろうか。分厚いカーテンの隙間から、橙色の夕日が射しこんでいるのが見えた。きらきらとした光に、室内を舞う微小な埃が反射している。

「おはようございます」

「……黒子っち?」

いきなり声をかけられて、そういえば視線を感じたから目覚めたのだったと思い出した。
僅かに離れたところで、椅子に座った黒子が黄瀬を見下ろしている。その膝の上に置かれた薄い文庫本に、ゆっくりと栞が挟まれた。
黄瀬は慌てて起き上がり、上着のポケットから取り出した携帯電話の液晶で時間を確認する。部活開始の十分前だ。寝すぎた、と慌てる黄瀬に黒子が声をかける。

「赤司君が、女バスとの合同ミーティングに関することで話がしたいと言っていました」

「赤司っちが? じゃあ、すぐ行ったほうがいいっスね!」

「……部活が終わった後でもいいそうですよ」

黒子はそう口にして椅子から立ち上がり、未だ床に腰を下ろしたままの黄瀬に近づいた。きょとんとしたまま黒子を見つめる黄瀬の肩へと両手を置いて、そのまま体重をかけて押し倒す。
再びカーペットの上へと戻ってしまった黄瀬は、不思議そうに目の前のアクアマリンのような瞳を見つめた。いつも以上に、黒子が何を考えているのか分からない。

「黒子っちどうしたんスか? もしかして、眠いとか……?」

子供のように純粋な瞳でまっすぐ見つめてくる黄瀬を見て、黒子は僅かに目を細める。誰もが守ってあげたくなるような白く細い指は、金色の髪を床に散らす少女の胸元にしっかりと陣取るリボンを引っ張った。しゅるり、と小さく音をたてて、黒色のリボンは黄瀬の制服から追いやられ床の上へと落とされる。

「黄瀬さんって、ビッチなのかと思ってました」

甘い甘い蜂蜜色の瞳がショックに揺らいだのを見て黒子は微笑み、それから黄瀬の水色のシャツについた小さなボタンへと手を伸ばした。プツン、とボタンが一つ外れる音が、やけに大きく室内に響く。

「青峰君と付き合ってるんですか?」

そう問いかける穏やかな声に、黄瀬は懸命に首を横に振る。
青峰は黄瀬がバスケを始めたきっかけで憧れでもあるけれど、恋愛対象と思ったことはなかった。第一、初恋も未経験の黄瀬にとっては、恋だの付き合うだのよく分からないのだ。
二つ目、三つ目のボタンが外されてしまえば、黄瀬の白い胸元が露わになる。柔らく慎ましいそれはほぼ白に近い薄水色の下着で覆われていて、黄瀬という女の子のイメージからは離れた潔白さを証明していた。

「なら、ご近所同士の緑間君と? 毎日、一緒に帰ってますよね」

「ちがっ、」

「同じクラスの紫原君? それとも、男バス主将の赤司君ですか?」

「だ、誰とも付き合ってないっス……っ! だから、黒子っち、離してっ」

黄瀬が黒子のことを友人として好いていて力ずくで抵抗できないのを分かっているから、水色の髪の少女はそのまま手を止めることはない。
シャツのボタンは全て外されて、完全に露わになった白い胸は大きく上下していた。撫でるように腹を撫でた黒子の手はそのまま、黄瀬の腰にあるスカートのホックに手をかける。

「っ、黒子っち!!」

悲鳴に近い声を上げる黄瀬の桃色の唇に人差し指を当てて、黒子はその見た目とは正反対の妖艶な笑みを浮かべてみせた。

「黄瀬さん、静かにしていてくださいね」

顔を真っ赤にして涙を滲ませているにも関わらず、黄瀬は条件反射とでもいうように口を噤んでしまう。
そんな黄瀬の目に入ってくるのは、馬乗りになった黒子が制服を脱いでいく姿だった。
胸のリボンを取り去って、水色のシャツのボタンを外していく。その華奢な体にも関わらず豊かな胸の膨らみは、黒いレースの下着で隠されていた。校則通りの膝丈のスカートのホックが外れファスナーが下ろされると、日に晒されない白い足が現れる。ブラジャーと揃いの黒いパンティの紐は、細い腰で綺麗に結ばれていた。
大和撫子のような黒子のイメージからは想像もできない大人っぽくいやらしい下着に、黄瀬はただ白い頬を赤く染めるばかりである。

「ねぇ、黄瀬さん」

黒子はそう言うと、黄瀬の絹のように滑らかで綺麗な首筋へと唇を寄せた。ちゅう、と音をたてて吸いつき、歯をたて、十分に舐ってから、唇を離す。
赤い花弁の散ったそこをうっとりとした表情で見つめながら、黒子は可憐に微笑んだ。

「私とイイコトしましょうか」



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女バスエースの黄瀬ちゃんと男バスマネの黒子さん。

2012.08.23.
2013.01.20. 加筆修正

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