中村真也の災難
(02/17 20:47)


※中村くんと中村くんの彼女捏造

レギュラーのミーティングが終わり、ぞろぞろと部屋を出て行く波に中村が乗り遅れたのは、着信を告げたケータイを開いてしまったからだった。ピカピカと点滅してメールが届いたことを知らせるそれを無視できずに、新着メールを開く。『真ちゃん、今度の試合応援しに行ってもいい?』と遠慮しながら訊いているそれは、中村が中学生のときから付き合っている彼女からのものだった。かれこれ三年強の付き合いになるというのに、中村の試合を観たいと言うときだけどうにも緊張して遠慮がちになってしまうのだと、そう困ったように笑っていたことを思い出す。『いいよ』と文字を打ち返信しようとしたところで、とんっと右肩に重みがかかった。

「これからナンパしに行くんだが、中村も特別に参加させてやろう」

「えっ」

右側に見える森山の端麗な顔に驚きつつ中村が周りを見渡すと、そこにはもうスタメン陣しかいない。あれ、え、と慌てる中村に、オエが教えてやう、と相変わらずラ行を言えない同級生が声をかけて来てさらに困った。
またやってる、という目で中村たちを見ている黄瀬の隣で、小堀が苦笑している。笠松が深い溜息を吐いた。

「いや、あの、俺、彼女いるんで、」

ナンパは遠慮します、と続けようとした言葉は、裏切り者がいたぞ、という森山の声にかき消される。

「え、裏切り者!?」

「そうだ、裏切り者だ。レギュラーは、海常1のイケメンである俺に彼女がいると報告する義務がある。そうだな、早川?」

「うす!」

「よって、中村真也くんには、俺と早川からの擽り地獄と彼女の写真公開の罰が与えられる」

「与えあえう!」

「えっ、ちょ、森山先輩、待っ、早川!?」

突然の宣告に動揺する間も与えられず、森山と早川に擽られ始める中村を助けることも出来ずに見つめながら、黄瀬は隣にいる小堀に向かって尋ねた。さっき森山先輩が言ってたことって本当なんスか、という問いに、そんな義務はないよ、と苦笑しながら小堀は答える。二人の視線の席では、馬鹿なことしてんじゃねえ、と大股で近付いた笠松が、森山と早川をシバいていた。



存外脇腹が弱かったらしい中村は、ぜいぜいと呼吸を乱しながらケータイを森山たちへと差し出す。その液晶に表示された写真に、可愛いっスね、と見たままの感想を黄瀬が口にした。
画面の中にいたのは、ショートボブのよく似合う女の子だった。海常高校のものではない見慣れないセーラー服姿で、恥ずかしそうにピースサインをしている。

「どこで知り合ったんだ?」

「中学の同級生なんです」

スタメン陣が一通り見たケータイを持ち主である中村に返した。それで、きっかけは?と興味津々なのは、森山と、それにつられている早川だけである。笠松はミーティングのノートを開いてまとめ始め、ここが分かんないんスけど、とカバンから数学の教科書を取り出した黄瀬は小堀に質問していた。

「俺の、バスケしてるとこが、好きって言ってくれて……」

「おお」

プレーヤーにとってそれほど嬉しいことはないな、と森山と早川が頷いている。チームメイトに自分の恋愛話を暴露することになってしまった中村は、恥ずかしさに両手で顔を覆った。
『中村君の、バスケしてるところがすごくかっこよくて、一目惚れしました。好きです』体育館裏という定番の場所ではなく、部活終わりの日も暮れ人気の無くなった校門でそう告白されたのだった。付き合って、とも言わず、それじゃ、とそのまま帰ってしまった彼女のことはとても印象的で、中村の方からクラスと名前を調べて付き合ってください、と言ったことを思い出す。150センチにも満たない小柄な外見からは想像できないくらい、中身は男前なのだ。

「中村はナンパに連れて行くことはできねーな。彼女と仲良くしろよ」

森山にポンポンと肩を叩かれて、中村はやっと解放される。ガラガラと戸を引いて部屋から出る中村の後ろで、ナンパに行くぞーっ!という森山の声と、それに応える早川の声、うるさいと怒鳴る笠松の声が聞こえていた。




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