オーシャンブルー(早川くん)
(02/17 20:46)


※早川くんとお父さん捏造


「充洋の名前には、この海が入ってるんだぞ」

五歳になったばかりの早川を抱え上げながら、父はそう言ってどこまでも広がる青く美しい海を見せたのだった。お父さんがいつも仕事してるところだよ、と大きな船に乗せてもらったときのことである。



早川の父は、航海士だった。
仕事で家を空けることが多く、今回も日本へと寄ったはいいものの家へと帰る余裕もなかったため、妻に我が儘を言って船が寄港しているこの場所まで息子を連れて来てもらっている。手紙に同封されている写真は見ていたが、実際に会うとその成長っぷりがはっきり分かるというものだ。五歳にしては大きい体だ、スポーツでもさせたらそれなりの成績を残すのではないか。妻が心配していた息子の喋り方も、成長と共に改善するのでは、と楽観的なことを考える。久々に会って抱きかかえた息子が可愛くて可愛くて仕方がなかった。

「おとうしゃん」

「お、何だ?」

海を見ていたくりくりとした目がきょろきょろと周囲を見渡して、何かに気付いたかのように指差す。小さな指で示されたそれに父は顔を綻ばせて、充洋はバスケに興味あるのか?と呟いた。
息子が指差した先には、使いこまれたバスケットボールが転がっている。傍には小さなバスケットゴールが一つだけ存在していた。この船のクルーには、バスケを嗜む者が多くいる。ボールも誰かが使ったまま片付けるのを忘れていたのかもしれない。
ボールを拾い上げた父も、実はバスケをするのが好きだった。固く揺るぎのない地上でのバスケも楽しいが、波の音、船が動く音を耳にしながらのバスケも面白いものだ。

「ほら」

息子には大きすぎるボールを、片手で重さを調整し子供が持てるようにしながら渡す。大きな目を一層大きくさせて、息子は嬉しそうにボールに触れた。

「お父さんも、バスケットボールしてるんだぞ」

ボールに夢中になった息子に少々寂しくなって、父は口を開く。ばしゅけ?という舌っ足らずな息子の問いに、そうだ、バスケだ、と答えてから、その大きな瞳を覗いた。
黒目がちの目には、色の褪せたバスケットボールと青色の海がきらきらと映り込んでいる。



充洋の名前には海が入っているんだぞ、という父の言葉と、どこまでも続く青色と大きなボールの記憶は、早川が高校生になった今でも鮮明だ。現在もどこかの海の上で仕事をしているだろう父には、レギュラーになって試合に出たとユニフォーム姿の写真を添付してメールを送った。海の色をしたユニフォームに身を包みバスケをしている早川を、父はきっと喜んで応援してくれている。
ほどなく返信されてきたメールには、異国の青い海を背景にしてバスケットボールを持つ父の写真が添付されていた。




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