メルヒェン赤司
(02/17 20:46)


これぞ日本家屋、というような立派な家を眼前にして、黄瀬はほぅ、と小さく息を吐いた。さすが赤司が住まう家といったところか、簡単に組み立てただけで作られるようなチープさは微塵もなく、どっしりとした構えの立派な造りである。

「黄瀬?」

大きな門の前で佇んだまま歩みを止めた黄瀬を、赤司が呼んだ。早く入れ、と眉間に小さく刻んだ皺で黄瀬を促す。
お邪魔します、と口の中で呟いて一歩赤司家の敷地に踏み出せば、それはもう感嘆の声しか出てこない。これぞ日本、という大きな文字が黄瀬の頭にどどんと現れる。

「離れが俺の部屋だ」

「離れもあるんスか、すごいっスねぇ」

正面に見えている玄関には向かわず、母屋伝いに進んでいく赤司の後ろをきょろきょろしながら黄瀬は付いて行く。おっきな松の木だなぁ、お庭に池がある、綺麗な魚もいるんだ、と子供が探検しているような気分で辿り着いた離れは、赤司だけが使うにしては広いものだった。
きっと赤司のことだから、無駄なものが何もない部屋なのだろう、と予想しながら、黄瀬は開かれていく玄関の戸を見つめる。暗かったそこに太陽の光が差し込んで、そうして見えた室内に黄瀬は目がおかしくなったかと二度三度、目を擦った。

「どうした、入らないのか」

「いや、入るっスよ、お邪魔します」

玄関マットはクマさんの形で、並べてあるスリッパはうさぎさんのもこもこしているものだ。これは冬もあったかくって、俺も好きっスけど、と黄瀬は思う。あまりに赤司のイメージとかけ離れていやしないか。
通された部屋を見て、再び黄瀬は目を瞠った。そこは広い和室、のはずだった。畳の上には毛足の長い薄ピンクのラグが敷かれており、部屋の隅にはお姫様が寝てそうな天蓋付きベッドがある。掛け軸やら刀やらが飾られることが多いであろう場所には、デフォルメされた可愛い動物たちのぬいぐるみがこんもりとバランス良く並べられていた。雪見障子の紙の部分に千代紙で作られた星が貼られており、綺麗な手鞠がその下に転がっている。和と洋が入り乱れたメルヘンというか、何と言うべきか。日本建築独特の光と影は姿を消していた。

「……これ、全部、赤司っちが?」

そう尋ねる黄瀬に、お茶を淹れて来た赤司は肯定のために首を縦に振った。ちなみに、緑茶が入っているのは湯のみではなく、パステルカラーのマグカップである。

「これは全部俺の趣味だ」

可愛いだろう?と部員を自慢するときのような表情で言われてしまえば、黄瀬にはそれを否定することなど出来なかった。うん、可愛いっスね、とそう一言口に出すのがやっとである。普段の赤司とのギャップに、黄瀬の頭はまだ混乱していた。






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