海常新撰組
(02/17 20:40)


【設定】
局長=笠松
副長=森山
沖田=黄瀬

【池田屋】

「御用改めである!」

目星をつけていた池田屋に踏み入ると同時に声を上げ、笠松は黄瀬と共に階段を駆け上がる。騒ぎに気付いた浪士共が斬りかかってくるのを躱し、階下へと蹴り落としながら進み会合の場であるだろう部屋へと急いだ。
敵の数に対し、池田屋へと乗り込んだ笠松たちの数は十にも満たない。森山と二手に分かれて探索することに決まったとき、局長である笠松の隊は腕の立つ者数人で構成し、副長である森山の隊は隊士の数を多くすることで兼ね合いをとったのだった。
京の都を火の海にし、帝を拐かすというとんでもない計画など、実行させるわけにはいかない。何としてでも自分たちで京をそして帝を守るという思いは、新撰組という組織に一層の団結を強いていた。
一人、また一人。笠松と黄瀬は互いの背を合わせて、斬りかかってくる浪士の相手をする。黄瀬の金色の髪と目に、新撰組の黄瀬か、仲間の敵だと襲いかかる者もいれば、恐れをなして逃げ出す者もいた。階下や裏口にも新撰組隊士がいて、逃げても無駄だというのに。

「大人しく捕まった方が、痛い思いもしなくて済むっスよ」

どこか茶化すような口調で、黄瀬が斬り結んでいる敵に向かって言った。刀身に脂がまわり、そろそろ斬れ味も鈍ってきた頃である。

「黄瀬、無駄話してんじゃねぇ!」

笠松の怒鳴り声と同時に、黄瀬の刀は綺麗に相手の体を貫いた。返り血を浴びないよう器用に飛び退いた黄瀬の耳に、階下の騒がしさが際立って聞こえてくる。
ようやく、森山たちが池田屋に到着したようだった。

【夏風邪】
こほこほ、こほ、と黄瀬が妙な咳をしていることには、試衛館出身の者は皆気付いているようだった。
一番隊のことで話があると局長室に呼ばれた黄瀬が一通りの内容を聞き終え退室しようとしたとき、我慢できなかったように、こほ、と一つ咳が零れる。

「黄瀬、お前大丈夫か」

「医者に診てもらったほうがいいんじゃないか」

笠松の言葉に続いて、森山も声をかける。
二人とも弟分である黄瀬のことが心配でならないのだった。池田屋では血の海の中に倒れ込んで、その光景を目の当たりにした笠松は一気に血の気が引いたという。
暑い中、帷子を着込んで動きまわったことが原因だろう、と診察した町医者は言っていたが、それだけが理由ではないのではないか、というのが笠松と森山の一致した意見だった。
黄瀬の妙な咳は、池田屋の後から始まっている。

「やだなぁ、二人とも心配しすぎっス」

にこり、と子供のように無邪気な笑みを浮かべて黄瀬は言う。中庭の、青々とした葉を広げる楓を背にして彼は微笑んだ。

「夏風邪を拗らせただけっスよ」

この言葉を迂闊にも信じてしまったことを、笠松と森山は後悔することになる。もっと早くちゃんとした医者に通わせてやればよかったと何度も何度も悔やむようになるとは、二人がまだ知るはずのないことだった。






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