デュエットソングネタ
(02/17 20:40)


桃の花が咲く季節。
街中の至る所で、『華のアイドルユニット、本日デビュー!!』というポスターが貼られ、可愛らしいプロモーション映像が流れている。当のアイドルが映っている部分は全てシルエットになっており、その素顔は今日までひたすら隠されてきた。
世間の期待が大いに高まった本日、夕方六時。ついに、日本中が注目するアイドルユニットがその姿を見せることになる。



◇◆◇



廊下で赤司からの指示を電話で受けていた黄瀬が控室へと入ると、黒子は依然私服のままソファに腰かけていた。彼の隣には、ふわふわレースのチェリーピンクの衣装が綺麗に畳まれたまま置かれている。

「黒子っち、まだ着替えてないんスか?早く着替えないと、もうすぐ六時になっちゃうっスよ?」

困ったように眉を寄せる黄瀬に目を遣り、黒子は不満を口にした。

「何でこんなふわふわひらひらしたピンク色の服を着なければならないんですか」

「え、それ嫌っスか?それなら、俺のと交換する?」

首を傾げる黄瀬が着ているものは、サイズこそ違えど黒子が嫌がる衣装とほぼ変わらない。いくらスカートでないとはいえ、なぜショートパンツなのか、なぜ無駄にひらひらしているのか、そしてなぜピンク色なのか。

「黒子っちのと、俺の、ちゃんと色違うらしいっスよ?黒子っちのがチェリーピンク、俺のがローズピンク。今日のラッキーカラーだって、緑間っちが用意してくれたっス」

眉間に一つ皺を刻んで嫌そうな顔をする黒子を、黄瀬は何とか宥める。こうしている間にも、刻一刻とお披露目の時間は迫っているのだ。

「早く着替えないと、赤司っちに怒られちゃうっスよ」

“赤司”という魔法の固有名詞に反応して、黒子はのろのろとひらひらした衣装に袖を通し始めた。ミルキーホワイトのブーツを履いてしまえば、あとは簡単に髪型のセットをされるだけで準備は終わってしまう。
出番です、とスタッフに呼ばれ、黄瀬と黒子は二人並んで外に飛び出した。



「黄瀬君」

「はい、何スか、黒子っち」

「なぜ国会議事堂なんですか」

正しくは、国会議事堂の真正面といったところか。そこに、黄瀬と黒子は並んで立っている。顔には完璧な笑みを貼り付けながら、黒子はアイドルユニットとしての相棒である黄瀬に問いかけたのだった。
普通は、テレビ局のスタジオとか、どこかの多目的ホールとか、屋外ステージとか、そんなところでデビューのお披露目をするのではないのか。国会議事堂前ってなんだ、そんなの見たこともないし聞いたこともない。いくら日本が平和ボケしているといっても、こればっかりはありえない。
フラッシュの嵐に目がおかしくなりそうな気がする、と極限まで目を細めた黒子が呟いた言葉に、答えを持たない黄瀬は困るばかりだ。とにもかくにも、このわけの分からないデビューコンサートを終えれば、平穏無事な日々が戻ってくるに違いない。
そう純粋に信じている黄瀬は、黒子に向かって笑いかける。

「黒子っち、とりあえずデビュー曲歌わないと」

「……やるしかありませんね。黄瀬君、紹介お願いします」

黒子の言葉に頷いて、黄瀬は手に持つマイクを口元へと近付けた。

「初めましてー!華のアイドルユニット、“飴ん坊”でっす!!俺たちのために、こんなにたくさん集まってくれてありがとうございまーす!!」

歓声が沸く。
一瞬止んだフラッシュの嵐のおかげで、観客の姿が僅かに視界に飛び込んで来た。目に入った人の誰もが、白と水色のどこかで見たことのあるカラーリングの服を身にまとっていたのは錯覚だと思い込んで、黄瀬は次の言葉を紡ぐ。

「では、デビュー曲聞いてください!“次会う日まで”!!」



【裏話】
黄瀬と黒子のアイドルユニット『飴ん坊』の名付け親は、紫原敦である。
赤司が様々なところへデビューの段取りについて連絡をとっている隣で、緑間は二人のデビュー衣装のデザインを考えていた。青峰は緑間に、もうちょい胸元開けたほうがいいんじゃねーの、というアドバイスという茶々を入れていたため、何も役割が無いのが紫原だけだったのだ。桃井は、ユニフォームのサイズ確認という名目にて、別室で黄瀬と黒子の体のサイズを測っている。

「赤ちん、俺は何すればい〜の?」

もぐもぐとお菓子を頬張りながら尋ねる紫原に、ちょうど電話を終えた赤司が顎に手をあてて何かを考え込む。ふむ、と一人で何か納得した彼は、紫原にはアイドルユニット名を考えるように頼んだのだった。

(名前、名前〜〜)

紫原は、黒子と黄瀬の顔を思い浮かべる。
水色と、黄色。水飴とレモンキャンディ。
瞬く間に二人の髪色は、甘い甘いお菓子へと変化を遂げた。

(ん〜)

サクッとまいう棒を齧った紫原が、咀嚼の傍らぽつりと漏らす。

「飴ん坊……?」

「それだっ!」

甘くて美味しそう、とだけ思って呟いた紫原の“飴ん坊”は、見事に赤司の琴線に触れたらしい。アイドルとしてそれはどうなのか、という緑間の最もな意見は、だがしかし聞きいれてはもらえなかった。



こういった感じで生まれた少年二人組のアイドルユニット『飴ん坊』は、衝撃の国会議事堂デビューからおよそ一年半ほどの間、日本中に一大ブームを引き起こすことになる。









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