即興小説トレーニング(赤黄)
(02/17 20:47)


【お家でやりなさい】
※お題:天才の軽犯罪

「ねぇ、それ犯罪っスよ」

周りに聞こえないように、黄瀬は小声で正面にいる赤司に向かって呟いた。電車の中は仕事終わりの会社員や学校終わりの学生でぎゅうぎゅう満員で、だからこそ、黄瀬の腹をまさぐっている赤司のことは誰にも気付かれていないのだが。
車両の一番端の壁に押し付けられて、赤司の体温の低い手が腹を這う感覚に唇を噛みながら、黄瀬はもう一度口にする。

「赤司っち、それ痴漢で犯罪っスからね」

何が楽しくて、満員電車の中で部活の主将に痴漢をされなければならないのか。いや、痴漢というには言い過ぎだろうか。あれ、セクハラなのかな。
電車の動きに合わせて揺れる吊り広告に視線を固定しながら、黄瀬は少し首を傾げた。そもそも痴漢の定義って何だっけ。

「ひぃ、っ!?」

ぐり、と臍を親指で押されて噛み殺し切れなかった声が漏れた。幸いにして、キキィと電車も軋んだ音をたてたので、黄瀬の哀れな声はそれに上塗りされて消えてしまう。周りの人がイヤフォンで音楽を聴いていることにも感謝をして、黄瀬は少しだけ潤んだ瞳で赤司を睨みつけた。

「黄瀬は臍が弱いのか」

「……誰でも弱いと思うけど。試しに、赤司っちの臍押してあげるっスよ」

黄瀬は、赤司がそれは遠慮すると言うことを期待していた。それならもう腹をまさぐるのはやめてくださいね、と言おうとしたのだ。
赤司の薄い唇が綺麗に開いて、白い歯と赤い舌が僅かに覗く。

「頼むよ」

そうして水色のシャツを捲り上げようとするものだから、黄瀬は慌てて赤司の手を封じた。
もう、何なんスか。天才の考えてることは分からない。そう思った。



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