即興小説トレーニング(火黄)
(02/17 20:47)


【冬のラーメンは美味しい】
※お題:頭の中のラーメン、必須要素:小説

珍しく小説を読んでいたというのに、時間が時間だったためか『ラーメン』という単語が出て来たところで集中力が切れてしまった。ぐぅ、と空腹を訴えて腹が鳴く。頭の中に浮かんだラーメンはほかほかと湯気を上げていて、早く食べないとのびちゃうよ、とでも言い出しそうだ。
タイミング良く駅に着いた電車から降りて、改札を出る。東京、とはいっても地元ではない駅。恋人が出来てからよく利用するようになった駅だ。

「しょうゆ、みそ、とんこつ」

歌うように黄瀬は口にする。白い息を吐き出しながら、すっかり暗くなった道を歩いて行く。火神は今日も部活があると言っていたから、まだ帰宅していないだろう。帰宅していないということは、夕飯の用意もされていないということだ。今夜は外食して、ラーメンを食べる。黄瀬の中でそれはもう決定事項である。スマホを慣れた手つきで操作して、火神にメールを送った。外に食べにいこ、というだけの簡潔な文面だ。




「で、何が食べたいんだよ?」

帰宅した火神は、お帰りなさい、と出迎えた黄瀬に向かって尋ねた。外食する、というので珍しくマジバにも寄らず帰って来たのだが、火神を誘った当人は何を食べるか教えてくれていないのである。黄瀬のことだから、食べたいものはもう決まっているだろうに。

「ラーメンがいいっス」

「ラーメン?」

「うん」

にっこりと、黄瀬は外に出るためコートを羽織りながら頷いた。火神の頭の中にラーメンが浮かぶ。どんぶりいっぱいに注がれたスープと分厚いチャーシューが火神を誘っている、そんな気がした。

「あのねぇ、」

マンションの通路に出て玄関の鍵を閉めながら黄瀬が言う。いつにも増して甘い響きを持った語尾は、何かを強請るときの癖だった。黄瀬自身はそれに気付いていない。

「醤油も、味噌も、豚骨も食べたいんスよ」

「……あぁ?」

「だから、今夜は、ラーメン屋さんをはしごします!」

マンションの淡い電灯の下だというのにきらきらと綺麗な飴色の瞳を輝かせるものだから、火神は断ることができなかった。黄瀬は小食だろうと言いたいところではあったが、大食いの火神が一緒にいるからさして問題にはならない。

「モデルなのにいいのかよ」

「今日はいいの、とくべつ」

そう言って笑う黄瀬が可愛かったものだから、火神もつられて笑ってしまった。そうか、とくべつか。復唱する火神の声に重なって、しょうゆ、みそ、とんこつ、と黄瀬が歌い始める。





top





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -