事の発端なんて軽い出来事だ。ちょっとした勘違いで起こった喧嘩…というより静ちゃんが一方的に怒っただけなんだけど、それでもただの日常の一部。それぐらい普通にありそうな出来事だった。それがこれからの日常を壊すなんてそんなこと当時の俺には考えもつかなかった。


六度目の傷


高校時代からいがみあってた俺たちはいつの間にお互い、嫌いとはまったく正反対の感情を持っていたことにに気づき、俺たちは付き合うことになった。もちろん付き合ってからしばらくは俺が言うのもなんだけど幸せだったし、静ちゃんだって幸せそうだった。

けれどあの出来事が起こった。そうあれは付き合って半年たったぐらいの頃だったと思う。

俺は池袋で仕事に必要な情報をおっさんから仕入れていた。そのためにおっさんにいつもの人のいいキャラを演じていただけなのに、何を勘違いしたのかおっさんは俺に言い寄ってきた。どうやら俺が自分のこと好きだとでも思っているように受け止めたらしく、「君の気持ちは分かっているんだよ」とか言われて路地裏に引っ張られていった。後々問題になるのはそのとき周囲を確認しなかったということ。そのあと俺はおっさんをてきとうにあしらい、自分の家に帰ろうとした。そこに静ちゃんから電話が来た。

「もしもし静ちゃん?どしたの?」

「今すぐに家に来い」

「家?は、なん」

最後まで言い終わらないうちに電話は一方的に切られた。

「なんっかイライラしてたっぽいなあ」

と苦笑しながらひとりごちた。今日はおっさんにくどかれるわ、静ちゃんの機嫌は悪そうだわでさんざんな日だとため息をつきながら、静ちゃんの家に向かった。




静ちゃんの家について呼び鈴をならすとすぐドアが開いた。バンッとドアが壊れるんじゃないかと思うぐらい派手な音を立てて。するとドアの前に静ちゃんは立っていて、俺は静ちゃんに胸ぐらをつかまれ、玄関に引き込まれた。そして。

「臨也てめえ、何してんだ?」

そう言いながら殴られた。家に入った瞬間に殴られたものだから最初何が起こったか分からず、俺は玄関に倒れた。

「いったあ…何すんのさ静ちゃん!」

「うるせえ。てめえさっきまでどこ行ってやがった」

「どこって仕事だけど…」

「誰といやがった」

「誰って仕事仲間」

「そうかよ。お前の仕事仲間は路地裏にお前と二人で入って何やらかしたんだ?」

静ちゃんのその言葉に静ちゃんが何に怒っているかわかった。「ちがっ静ちゃん、あれは」

「言い訳なんざ聞きたくねえ!」

また殴られる。そのあとは話を聞いてと何回も言うのにそのたびに殴られるの繰り返しだった。

「違う、ほんとに違うの静ちゃん…」

「…」

その後必死に何度も訴え、殴るのを止めてもらったのは顔中あちこちが痛み、真っ赤に腫れるまで殴られた後だった。俺は誤解を解くように必死に説明すると、静ちゃんの誤解はやっと解けた。

「もう…痛かったんだからね、静ちゃん」

「悪かった…頭に血が上ってて正気じゃなかった…本当に悪かった」

静ちゃんは本気で謝ってくれて、俺がもういいよと言ってるのに、でも俺が悪かったからと何度も謝るほどだった。静ちゃんがキレたら手がつけられないというのは周知の事実だ。だから俺は今回のことはたまたま静ちゃんの虫の居所が悪くてキレてしまっただけだと軽く考えた。静ちゃんはこんなにも謝っているのだし、そう深く事を考える必要もないと思った。

けどそれでも、キレた静ちゃんの顔は本当に怖かった。止めてとどれほど懇願しても殴ることを止めず、話に耳も貸さずに殴り続ける静ちゃんの顔は、それこそ別人みたいだった。

今回のことは俺にも少し非はある。俺が少し油断していたのが原因だから、次からはあんなへまをしないようにしないと。それにあんな静ちゃんの顔も見たくないし…と俺はさっきの静ちゃんの顔がフラッシュバックするのを頭をふって忘れるようにする。

まだまだ肌寒い2月のことだった。








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DV静臨うまいですもぐもぐ。続き物です。DV話ですので苦手な方は閲覧注意!

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