!来神時代 高三設定




ざわざわと来神学園の体育館はいつもより騒々しかった。体育館だけでなくグランドにもジャージ姿の生徒がたくさんいて、わいわいと言葉を交わしたり、笑いあったりしている。

今日は来神学園は全校一斉の体力測定だ。

来神学園の体力測定は1年から3年まで少しずつ時間をずらし、順に体力測定の種目を回っていく。混雑のないように学年の中でもクラスごとに回る順が指定されていて、生徒はそれに従って動いていた。

そんな中、静雄と新羅のクラスはハンドボール投げ、1500m、長座体前屈、握力、腹筋、立ち幅跳び、50m走、反復横飛びという順番で二人はもう最後の種目、反復横飛びをするために体育館に来ていた。

反復横飛びのために順番待ちをしていると、新羅ははあとため息をついた。

「なんかもう僕50m走で疲れたから反復横飛びとか無理なんだけど」

「とか言いながら、お前さっきの50m走のタイムすごかったじゃねえか。7秒1だっけか」

「別にあんなの高校生の身体能力でいくと普通じゃないか」

そうなのか、と首を傾けながら言う静雄に新羅はあははと固まった不自然な笑顔を浮かべた。

(僕が50m走だけ異様に早いのは、君と臨也の喧嘩に巻き込まれないように毎回全力疾走してたから、それでいつの間にか鍛えられてたんだよ)

言ったら絶対怒らすと分かっているので、新羅は心の中で呟く。下手に静雄の怒りに触れでもしたら大変だ、と新羅はため息をついた。そして新羅はちらっと辺りを見回した。自分の周辺を一通り見回すと、今度は安堵のため息を漏らした。

(今年は大丈夫みたいだな…だいたい今年で最後なんだから、最後ぐらい平和に終わらしたいよね)

そう、思ったときだった。

「あっれー静ちゃんに新羅じゃないか!」

「…嘘だろ」

新羅は思わず目眩を感じる。さっき見回したときはいなかったくせに、どこから現れたのか臨也が手をヒラヒラ振って立っていた。

「あのねえ臨也、」

「臨也てめえ、何しに来やがった」

新羅の言葉を遮って静雄が口を開いた。その顔は明らかに怒りに満ちていて、新羅はあ、やばいと自分の背中を冷や汗が伝ったのを感じた。

「俺も身体測定だから。別に静ちゃんに会いに来たとかじゃないから勘違いしないでよ」

「ああ!?」

うざい笑みを浮かべている臨也に対して、静雄はブチ切れた笑みを浮かべている。すでに周りにいた生徒は、二人の半径5mにいてはならないという決まりでもあるかのように遠ざかっていた。もちろん新羅もその中にいち早く混ざって二人の成り行きを眺めていた。

「静ちゃんさー、また今年も握力測定器壊したの?静ちゃんがこの学校入ってからここの握力測定器何個壊したのか気になるよね!」

「ふざけんな死ね。今年は壊してねえ」

「知ってるよ。まず計らしてもらえなかったんだろ?今年も壊されたらたまらないって言われたらしいねえ。あはは、愉快愉快!」

「うぜえ殺す!殺す!!!!」

「物騒だねえ。高校最後の体力測定ぐらい平和にいこうよ」

「臨也が言うなって話だよね」

二人から5m以上離れたところから新羅は言う。もちろんこんなのんきなことを言えるのは、半径5mというこの距離さえ守れば、喧嘩に巻き込まれることがないと分かっているからだ。

「よっと。ちょっと借りるよ!」

「はあ?あってめえ返せ!」

臨也はいつの間にか静雄の体力測定の結果の記入用紙を奪いとっていた。それを静雄の目の前でぴらぴらと見せびらかすかのようにふって見せる。静雄はそれを取り返そうと手を伸ばすが、臨也はニヤニヤしながらちょうど静雄の手に届かないように静雄からサッと離れる。

「ははっ静ちゃん握力んとこに斜線引いてあるじゃん!50mは…6秒1とか化け物じゃん。そこらの運動部より早いんじゃない」

「死ね!何でもいいから返せ!!!」

「それで腹筋が55回ね…さすがナイフが通じない腹筋だ。で、ハンドボール投げが59mね。ほんとに静ちゃんの体どうなってんのさ」

心底楽しそうに口の端を上げ薄く笑いながら、静雄の結果に目を通す臨也。その間も静雄は自分の結果用紙を取り返そうとする。

「てめえには関係ねえだろうが!さっさと返せ!!」

「やだね。静ちゃんの身体には興味がある。化け物の身体能力なんて気になるじゃないか」

静雄からの攻撃を避けながら、臨也はしばらく自分の結果と比べるように静雄の結果を眺めていた。しかしいきなりニヤリと笑みを浮かべ言った。

「けど長座体前屈と1500mは勝ったね」

「ああ…?」

自分の結果用紙を取り返そうとすることに必死で、自分の結果に興味のなさそうにしていた静雄がピクリと反応する。臨也になにかしら負けたということが嫌なのだろうか、ぴたりと止まって殺意のこもった目で臨也を睨む。

「臨也はいくらだったの?」

それまで関わりたくないとばかり遠ざかっていた新羅が問いかける。興味津々に聞いているところ見ると、あの静雄より結果がいいという臨也の身体能力にも俄然興味がわいたのだろう。

「長座体前屈は68cmだけど?」

自慢気に顎をクッとそらせ誰が見てもイラッとする笑みを浮かべる臨也。そんな臨也に新羅は笑顔で言った。

「気持ち悪い体してるねー」

「柔軟力とかあってもたいして意味ねえじゃねえか」

「あれ?ひがみかな?あはは」

「で、1500mは?」

「4分16秒だけど?」

「静雄は?」

「…4分54秒」

静雄の記録もすごいことに変わりはないはずなのに、静雄は臨也に負けたからかチッと舌打ちをする。そんな静雄を見て臨也は高らかに笑う。

「あはは!! やっぱ静ちゃんは力が強いだけで体力とかそういう根本的なところはだめなただの短絡的な人間だったんだね!」

バッとジャージでジャケットプレイをする臨也。うん これはうざい、と新羅は頭の隅で考えるが、次の瞬間横にいる静雄の殺気に気がつく。

「うぜえ…うぜえ…!!」

「まあまあ静ちゃん。俺に体力測定負けたからってキレないでよ」

「しゃべんな!!殺す!!殺す、殺す!!!」

「だからさー静ちゃん自分ボキャブラリー少なすぎ。馬鹿丸出しだよ」

見下したような目で嘲笑う臨也の言葉にさらに額に青筋を浮かべる静雄。新羅がとっさに危険を察知し、また半径5m以上の距離をとろうと走り出した次の瞬間。

「ま、これほど単純な静ちゃんを表してる結果はないよね!本当にただ力だけ、ってさ」

その言葉を臨也が言い終わるか言い終わらないかのうちに、机が宙を舞った。

その机は記録を記入するために設置されていた机だったが、それは静雄によって持ち上げられ、静雄によって空を飛び、静雄によって床に叩きつけられた。臨也がその机をひらり、とかわすとガシャーンと派手な音をたて、机は体育館の床に落ちる。机が落ちたあたりにいた生徒は絶対巻き込まれたくないと一目散に逃げていった。

「だめじゃん静ちゃん。他の人が怪我するよ」

「うるせえ黙れ!!てめえのせいだろうが!!」

「おお、怖い怖い」

臨也は一つも怖がる素振りを見せていないくせにに肩をすくめる。そしてニヤッと笑って走り出した。

「てめえ逃げんな!!臨也あああああ!!!」

体育館の中を身軽に逃げ回る臨也。静雄は臨也の行く手を阻むように設置してあった机を次々と投げまくる。もう体育館の中は大パニックだ。もはや半径5mなどなんの意味もなく、生徒達はみんな体育館の外に逃げようとして大混乱だ。

「高校三年間で一番最悪の事態になったな…」

人混みにもまれながら、新羅は大きくため息をつく。まったく最後くらいは大人になってくれよ、と呟いたときに机が飛んできた。

「うわっ!」

間一髪すれすれで避けると机が新羅の後ろで床に落ちて跳ねた。思わず尻餅をついてしまって、手をついたとこがじんじんと痛む。顔をしかめながら立ち上がろうとすると、新羅の目の前に手がさしだされた。

「ドタチン!!!!!!」

新羅はその手の主に半泣きでしがみつく。この状況で一番頼りになる人物、門田に出会えて涙目になる。

「大丈夫か?」

「うん、別にたいして怪我はしてない」

「しかしあいつら…」

はあと門田はため息をついて静雄と臨也が喧嘩している方を見やる。

「あれもう喧嘩とかそんな可愛いもんじゃないと思うんだけど、どう思う?」

「同感だ」

門田と新羅は二人同時にため息をつく。

そして振り向くと、そこには体育館内で机が飛び交うという非日常な日常が繰り広げられていた。




あぁ、愛しき青春








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※この物語はフィクションです
いやほんとハンドボール投げ59mがどれくらいすごいとか分かりません。もしかしたら人間的にあり得ない記録があるかもしれませんが、それはスルーの方向で…!
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