!生徒ろっちー×ドタチン先生


見てしまった。何であのタイミングで教室に帰ってきてしまったのか、と自分の間の悪さに嫌気がさす。

出席簿を教室に忘れたことに気づいたのは15分前。それから出席簿をとりに教室に向かって、思わず教室の前で立ち止まった。声が、する。それに気づくと無意識に息を殺していた。音がしないように呼吸しながらうすく扉を開けた。―――そこには。

「んっ、ふあ、ろっちーもっとして…」

「もーゆうちゃんはわがままだなあ」

「わがままじゃないもん」

女子生徒と男子生徒が深くキスをしていた。しかもそれだけではなく女子生徒のスカートは下に放り出されており、このあとどういう行為に及ぶのか考えなくても分かった。

まじかよ、としばらくぽかーんとそれを見ていたがはっと我に返る。

(あれは…1組の伊東ゆうと4組の六条千景…?)

伊東はともかく六条千景は毎回自分の担当教科の補習の正規メンバー、いわゆる補習の常連だから嫌でも顔が分かる。

こんなところでなにしてんだよ、と深くため息をつく。だいたいこのタイミングで教室に入れるわけがないだろ。俺は出席簿とりにきただけなのにな。そう思いながら、ちらりとまた教室に目をうつしてー…

千景はもう伊東の服を脱がしにかかっていて、伊東の体のあちこちを舐め回していた。

(っ!)

その伊東の体を触る手つきのいやらしさに、ちろちろ見える赤い舌に、息が荒くなった。思わず、腰に来た。腰がずくずくと甘い痺れに襲われる。思わず声が漏れそうになるのを、すんでのところでこらえた。

(う、そだろ…っ)

そして自身が主張をしていることに気づく。

(たしかに最近抜いてないけど、でもそんな…っ)

他人とセックスのを見て自分が欲情するなんて。そんなに俺欲求不満だったのか、と一人で羞恥に真っ赤になる。けれど腰の痺れはましになるどこか、全身に巡り回る。全身に走る甘いうずきに立っていられず、ずるずると床にへたりこんだ。

そして自分の手がズボンのベルトにかかっていることに気づいてハッと我にかえる。

(まさか今俺ここで抜こうとした…!?)

自分のしたことが信じられず、頭が真っ白になり焦る。自分は今無意識に何をしようとした?

自問自答して頭が混乱したせいで、教室の扉が開かれたことに気がつかなかった。ハッと顔を上げるとそこには千景の顔があった。のぞきこまれていたのだということに初めて気がつき、勢いよく立ち上がる。

「ちっ千景…っ」

「門田先生?どしたのこんなことで?」

にんまりとした笑顔で俺をみる千景。頭の中が今の状況についていかず、何も言えない。扉にもたれかかり、かなりえらそうな千景だが、先生にたいしてその態度はなんだと注意しようということまで頭が回らない。

すると中から声がした。

「ねーろっちー誰かいたのー?」

伊東からは俺が見えないのだろうか。そんなことを考えていると、千景はその言葉を聞き、そのまま俺を隠すようにして扉を閉め、教室の中に入っていった。

千景の行動の意味が分からず、一人固まっていると中から六条の声がした。

「見回りの先生っぽいよ。すぐこの教室も点検しにくるだろうから早く帰りなよ」

「え、ちょ、ろっちー!?このまま!?」

「仕方ないだろ。見つかりたくなかったら帰らなきゃ」

「でも…!」

「俺は君との時間を先生なんかに邪魔されるとこで過ごしたくないな」

「…分かった」

そんな会話が聞こえて、やっと帰ってくれるのか、と胸を撫で下ろす。同時に、そういや出席簿忘れてとりにきたんだっけか、と自分が教室に来た理由を思い出す。

とにかく千景には助かった。いや、だいたいこの教室であんなことをしていたこと自体が問題なのだが、きっといろいろ聞きたいのを我慢してこの状況について何も言わないでくれているだから、そのことには目をつぶろう。

ところが二人が出てくるのを待っていると、いきなり教室の中に引き込まれた。

「っ何するんだ千景!」

俺は驚いて叫ぶ。俺を教室に引き込んだのは千景だった。教室に伊東はおらず、俺と千景の二人だった。

「伊東はどうした?」

「ベランダから先に帰したよ。こんな時間だし」

「じゃあお前も早く帰れ」

「…先生さあ、さっき教室の前で何してた?」

俺の質問には答えずさらりと涼しい顔で言う千景。思わず、フリーズした。

「…は、」

「だからさ、さっき何してたの?」

「そ、れは、」

聞かないでくれて助かった、と言った直後にそれ聞くなよと言いたかったが、どうもうまく口が動かない。あの状況について説明できるはずもない。教室の前で教師が床に座りこみ勃起させていたのだから。俺はパクパクと金魚みたいに口を動かすだけで、後の言葉が続かなかった。

「俺には、先生が俺とゆうがHすんの見てて勃起させてたようにしか見えなかったんだけど」

全部分かっていたのか、と背中に嫌な汗が流れる。とりあえずこの場から逃げたい。こいつの言葉に返事をしたくない。そんな思いばかり頭をかけめぐる。

「ね。先生」

「なん、だ?」

ところが千景は俺の回答を要求せず、スッと俺の顔をのぞきこんで言った。

「おんなじことしてあげようか?」

「…は?」

どういう意味か分からず聞き返した。

「だからさ、ゆうにしてたみたいにいいことしてあげようかってこと」

「は!?なっんで…っ、」

「だって先生起ってたじゃん」

にこっと爽やかなその笑みが女子に人気なのだろうか、とちらりと考えるがすぐに現実に引き戻される。俺と何を?伊東にしていたことをする?理解ができず、頭が混乱した。

「ち、かげ、どういう、」

「こういうこと」

千景がそう言ったのと同時に口が塞がれた。展開についていけず、3秒くらいフリーズしてようやく何が起きたのか理解する。

(キスされた…っ)

やばいやばい、と千景を拒否しようとするが若い千景の、しかも成長真っ只中の男子生徒をそんな簡単に引き剥がせるわけなく、俺は壁際に押し付けられた。ますます逃げられなくなるのにつれ、千景のキスも深くなる。

「ふっ、ん、ん、」

「…先生」

千景の動きに翻弄されて、されるがままになっていた。年下にいいようにされて恥ずかしいという思いもこみあげるが、とにかく千景は上手いのだ。

(なんでこいつキスこんなうまいんだ…っ)

伊達にあんな女子生徒をはべらせてるわけではないのか、と思った。しかし千景の動きによってすぐ思考は遮断される。

歯列をなぞられ、いろんなところを舐められて体がびくびくした。チュクチュクと水音が教室に響く。どちらの唾液か分からないくらい唾液が混ざりあい、口の端から溢れた。

(何でキスだけで、こんな)

俺自身はすでに起ちあがり、俺のそこはテントを張っていた。

千景はそれを確認するとやっと口を離した。俺は息を大きく吸い込み、肩で息をする。

「はあっはあっ、」

「気持ちよかった?」

「っ、」

「気持ちよかったんだね。だってまた勃起してるもん」

「うぁっ」

いきなり掴まれて、体を反らせる。自分の声とは思えないような高い声が出て、はっと口を押さえた。多分自分は耳まで真っ赤だろう。顔が火照るのを感じた。千景はにこにこしていて、その顔は何を考えているのかまったく分からなかった。

「千景…っお前何がしたい、」

「先生にぶいなあ」

はーっとため息をついて俺の耳にささやいた。

「俺、先生が好きなんだ」

そう言うとふっと息を吹きこまれ、また体がびくりと反応する。けれど頭の中は?でいっぱいだった。

好き?千景が?俺を?

必死に意味を理解しようとしていると、にゅっと千景が顔をのぞきこむ。それに気づき、はっと顔を上げた。なにもかも見透かしたような笑顔の千景。そして俺は何の返事もせず、その千景から逃げるように教室を出た。

出席簿を忘れただとか教室の施錠をしないといけない、だとか自分の仕事のことは走りながら何一つ考えられなかった。―――ただただ。

(あんな顔で見られたらやばい)

口を手の甲でおさえて走る。頭の中はあの、のぞきこまれたときの千景の笑みでいっぱいだった。



恋の始まりはベーゼ











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