!すれちがい静臨





想うだけの不毛な恋だ、と思った。臨也は毎日女をとっかえひっかえしているようなやつだし、まず俺をそういう対象に見ていないだろう。たまに男の相手もしているようだったが、俺をそういう風に見ているはずがない。毎日のように喧嘩をし、顔を合わせば怒号を飛ばす日々。傍目には俺たちは相性最悪のかなり仲の悪い二人に見えるだろう。

そんな二人なはずなのに、まさか俺が臨也のことを好きだなんて知る由もない。伝える気なんてないし、今後もこの想いは伝えず、ずっと抱えていくつもりだ。想いが積もって積もって吐き出したくなっても、はりさけてしまいそうになっても俺はこの想いをあいつに告げることはないだろう。

言えば関係が壊れる、とかそういうありがちな理由以前に、俺が臨也にそういう想いを抱いていること知ったら、臨也は俺を相手にしなくなるだろう。多分、臨也の"興味のあるもの"というカテゴリーから俺の存在が消えてしまう、気がする。俺は臆病だ。そんな仮定の話に怯えて気持ちを伝えられずにいるただの臆病。

毎日大嫌いだと嘘を叫んでも、それでもあいつへの気持ちはおさまらなくて、むしろ加速していく。伝えたい二文字は言えないのに、その反対の言葉ばかり口をつく。大嫌いだ、と叫んで心の中では愛している、と呟く俺は自分につく嘘にすら慣れてしまった。

会うたびに臨也は俺をからかう。それは臨也の中で俺はまだ"興味のあるもの"に入っているということで、俺はそれだけでよかった。それだけで飛び上がるぐらい嬉しい、そう思いこむしかなかった。それだけで、と言わなければ俺は贅沢にさらにその先のものを欲してしまうだろう。手に入らないものを欲するのはただの馬鹿だ。手に入らない苦しみを味わうと分かっていながら欲するわけがない。いわゆるそういう話だ。無理矢理、それだけでいいと自分に思いこますと、心はそこに愛はないのに、と泣いた。














重なるはずのない馬鹿な恋だ、と思った。静ちゃんは俺の想いに気づかない。いや気づくはずがない。叶うはずがないから毎日のように女の相手をしていた。男に抱かれたこともあった。最中でも頭の中では静ちゃんのことしか考えられなかった。他の男と寝ることで静ちゃんのことを忘れられるかもしれない。けれど気持ちはなくなるどころかどんどん膨らんでいくばかりで。こいつが静ちゃんだったらよかったのに、と何度思っただろう。

毎日のように喧嘩をしてお互いお前なんか嫌いだと叫ぶ。静ちゃんは本心からだろうがもちろん俺はそんなのは嘘だ。思わず出てきてしまいそうになる自分の本当の気持ちへのせめてもの抵抗。想いと逆の言葉を言いでもしないとこの気持ちが溢れだしてしまいそうになる。だから静ちゃん、世界で一番嫌いだよ、と心とは裏腹のことばを告げる。

もちろん今後も言う気はない。伝えたら静ちゃんは変に意識をするだろう。だって静ちゃんは人の気持ちってものを人一倍大事にするから。信じられないような力を持っていて、キレる度に暴力をふるう静ちゃんは冷酷な人間と勘違いされやすい。それゆえに言われようのないことも言われるが、本当は静ちゃんは優しい。それこそ人一倍。それを俺はよく知っている。だからこそ言えない。伝えれば静ちゃんは今まで暴力をふるってきたことを悪かったと謝り、なかったことにするだろう。そして俺の気持ちを直で断ることなど出来ないから静ちゃんは俺になるべく暴力をふらないように俺から離れてゆくだろう。だから言えなかった。

毎日学校で顔を合わせて毎日喧嘩していて毎日言葉を交わしてるのに、俺と静ちゃんの距離は遠い。どうしようもないぐらいに。静ちゃんは俺のことを殺したいぐらい憎んでいるし、そんな俺がまさか静ちゃんのことを好きだなんて思いもしないだろうな、と思う。心はここにあらずとも静ちゃんの近くで静ちゃんの声を聞ければいい。今のところ静ちゃんは俺を見るだけでイライラすると言って"くれる"。嫌いだとか憎んでいるとかそういうのはまだいい。本当に最悪なのは俺に興味がなくなる、ということ。だから俺は静ちゃんの気に触りそうな言葉ばかり吐く。新羅にはいい加減やめなよ、嫌われるよと言われるが、本当に怖いのは嫌われるとかじゃなくて、静ちゃんが俺をあいてにしなくなることだ。それだけは耐えられない。

…だから。だからいつまでも静ちゃんがこちらを向いているように。ねえ静ちゃん、人類の中で君が一番嫌いだよ、と。歪んだ愛を今日も俺の唇は紡ぐのだ。




重なることのない手は君に触れることすらためらった。

だけど。


結べない小指でも愛しかった







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -