「はあーさむー」

学校からの帰り道、澄みきった寒空の下、白い息を吐き出しながら新羅は言った。はあーと手を暖めながら横に並んでいる静雄に言う。

「なんか最近朝より寒くない?」

「あー、天気予報で今日は夜から雪降るらしいぜ」

「え、ほんと?じゃあ今日かなり寒いんだ」

「今年一番の冷え込みだとよ」

静雄と新羅の話に門田も入った。もごもごとマフラーに顔を埋めながら言う。

「毎日こんな寒くちゃかなわんな」

「早く帰って熱いコーヒー飲みてえ」

「あー、コーヒーいいねえ。けど僕は早く帰ってセルティの熱い愛に触れたい」

「はは、新羅気持ち悪いなあ」

人を小馬鹿にしたような笑い声を上げて、門田の横にいた臨也が振り向いた。気持ち悪い、と言われたのに新羅は笑顔を崩さず切り返す。

「君に言われたくないよ、臨也」

「だろうね」

「―――それより、だ」

するとさっきまでコーヒーを飲みたいと平穏なことを言っていた静雄が額に青筋を浮かべた。新羅は頭の中で、あれ?ヤバイ感じ?と思いながら反射的にじり、と後ずさる。静雄はそんな新羅に気にもとめず、腹の底から震えるような声を出す。

「なーんで臨也君が一緒にいんだろうなあああ?」

「いや、逆じゃない?何で静ちゃんがここにいるのさ?君この二人と友達だったの?」

嘲るような笑いを浮かべてブレザーに手をつっこんだまま静雄の方に向く臨也。その笑いにいらついたのか静雄はギリ、と歯を噛み締めた。その様子を見て、あー静雄の沸点に近づいてるなあと新羅は思った。

はあ、と門田は額に手を当ててため息をついた。校門を出たあたりで静雄が何も言わないものだから、今日は大丈夫なのかと思っていたが、やはり臨也と静雄はいつでも通常運行かと頭が痛む。多分静雄も臨也が自分をいらつかせるようなことさえ言わなければいい、と思っていたから何も言わなかったのだろう。けれどやっぱりこいつらが一緒にいるのは無理だな、と門田は思った。

「お前がいても何も言わなきゃいらつかねえかなと思っていたが、無理だった。なあこの蚤虫野郎が」

「俺、蚤虫野郎じゃないからね。あと静ちゃんが我慢なんてできるわけないじゃん。馬鹿なんだし」

「うぜえ。うぜえ。殺す、殺す!!!!!」

門田が臨也、静雄を挑発するな、と言う間もなく静雄の怒りは沸点に達し、ついに静雄はキレて道にあった道路標識を引っこ抜く。最初それを見たときは臨也も驚いたものだが今は、またそんな公共物武器にして、とからかえるぐらい慣れた。これが日常茶飯事なんだから慣れないほうがおかしいよね、と思いながら臨也は静雄が振り回した道路標識をひょいっとかわす。

「いきなり危ないなあ。当たったら死ぬんだよ?怪力馬鹿の静ちゃんと違ってね」

「うるせえしゃべんなだまれ」

「うわあなにそれ。うるさいの三段活用?」

けらけらと馬鹿にしたように笑う臨也にまたピキリと青筋を立てて、静雄は道路標識をためらいなく臨也の頭上に降り下ろす。臨也はひゅっとそれを紙一重でかわすと、あははと笑い声をあげて門田と新羅に言った。

「ドタチン!新羅!なんか静ちゃんがいきなりキレだしたから俺先帰るね!」

「あ?ああ…」

門田が曖昧な返事をすると、臨也はニッと笑ってそれじゃ!と言って走り出した。すると静雄もそれに反応して臨也の後を追う。

「ふざけんなてめえ臨也!逃げんじゃねえよ!」

「逃げなきゃ死ぬじゃん」

「殺してやるから逃げんな!今日こそ息の根をとめてやる!!!!!」

そのあともなにか叫びあっているようだったが後は遠くに言ったので聞こえなくなった。残された新羅と門田は嵐の過ぎ去ったあとのようだ、と二人とも口には出さないにしろ思っていた。新羅は肩をすくめて門田の顔を見やると、門田ははあとまたため息をついた。

「あれは誰にも止められないから仕方ないよ」

「分かっているが、毎回展開がこうも一緒だとな。一瞬今日は大丈夫そうだと思ったのが馬鹿だった」

まああの二人が平和に同じ空間にいるってのは最初から無理な話さ、とフォローを入れて、新羅は道端に落ちているもの気がついた。

「あ、静雄のマフラー」

「臨也殴るのに必死で落としたのに気がつかなかったんだな」

まったく、と新羅は静雄のマフラーを拾ってパンパンとはたいて砂を払い落とした。そして、帰ろうかと二人はまた帰り道を歩き出した。

「ドタチンはさ、二人のお父さんみたいな感じだから大変だろう?」

「はあ!?あの二人の父親なんか願い下げだ!」

「あはは、冗談だよ」

「それを言うならお前だってあの二人の母親じゃないか」

「えー…静雄と臨也の…?」

「露骨に嫌な顔をするな。だってこのあともどうせお前に怪我見てもらいにくるんだろ?あの二人」

「まあたしかにそうだけどさ。あーあ、家に帰ってたらセルティといちゃつきたかったのに。迷惑な話だよ、まったく」

新羅は深いため息をついて空を仰いだ。すると雲一つないきれいな青色をした空に自販機が空高く舞った。門田はまた静雄か、と本日三回目のため息をついたが、新羅はその日常的な光景に思わずくすりと笑ったのだった。



少年Sの日常












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