「帝人ー!」

授業が全部終わり終令とともにA組に響くこの声。

――紀田くんだ。

まったく終令が終わったと思ったらすぐに大声で僕の名前を呼んで、落ち着きがなさすぎるよ紀田くん。

教室に入ってきた紀田くんにそう言うと紀田くんは大げさに腕を大きく開いた。

「これからナンパに行くんだから一分一秒も惜しいだろ!」

「いや、僕行くなんて言ってないし」

「ええっ冷たいな帝人!」

毎日のように繰り返す会話。周りからしてみたら相変わらず仲いいなーという感じに見えるのだろうが、僕ははっきり言って今の状況が歯がゆかった。

この"親友"という位置からは一週間前に僕が紀田くんに告白したことで、脱却したはずだ。僕は一週間前に紀田くんに告白して頷いてもらった。なのにあれから一週間、何も前と変わらない。明らかに紀田くんの中で僕は"親友"の位置から移動していないのが分かった。

あのとき頷いたのがその場逃れとかそのときの勢いとかじゃなかったのは分かっていた。だからなぜなのか分からなかった。紀田くんの中で俺が"親友"から"恋人"に変わらない理由が。けどつい昨日その理由に気づいてしまったんだ。

「あれ?そういや杏里は?」

「園原さん、今日は休みらしいよ。めずらしいよね」

「杏里が休みかあ…めずらしいな。見舞いとか行くか?」

「あ、お見舞いだけどなんかほんとにただの風邪らしくて、明日にでも来れるからいらないってさ」

「え、まじで?」

「うん、さっきメールしたらそう言ってた。まあほんとにただの風邪なら1日休んだだけで園原さんの家に行くってのはね…」

「まあたしかにそうだな…」

紀田くんはうーんと少し考えこむと、すぐにバッと顔を上げた。

「じゃあ今日は杏里のためにたくさん女の子ナンパしよう!そうしよう!」

「いや、何で園原さんのためなのさ。意味が分からないよ」

「まあそう固いこと言うなよ帝人ー」

ヘラリと笑う紀田くんに思わず僕の気持ち分かってる?と言いそうになった。危ない危ない。もっと落ち着かなきゃ。頭の中で自分を制御する。

そしてノリノリな紀田くんに連れられて池袋に出た。それから紀田くんはナンパをしてたけど今日は一度も成功していなかった。今日はなんか厄日だなーとため息をつく紀田くんを横目でちらりと見ながら頭の中では一週間前のことを言うことしか考えていなかった。 正直今日は園原さんもいないし、チャンスだと思った。今日しか言う日はない。幸いいまだにナンパに成功してないし、言うなら今だ。

しばらくぶらぶらうろつきながらちょうどよさそうな路地裏を探す。そして僕は一目につきにくそうな路地裏に紀田くんを引き込んだ。そしていきなり深くキスをする。

「!?ふっ、んっ、んんっ」

下を深く入れこんだり、角度を変えながらいろんなことを舐めたり、歯列をなぞってあげると紀田くんの口の端から飲みきれなかった、僕のか紀田くんのか分からない唾液が垂れる。時折気持ちいいのかふるっと震える体で紀田くんの口の中のいいところを把握する。

口を離すと銀の糸が僕の口と紀田くんの口を繋いだ。

「…っいきなりなにすんだよ、帝人!」
溢れた唾液を拭いながら、ハアハアと荒く息をする紀田くん。そんな紀田くんを見ながら僕は紀田くんの質問に一切答えず言った。

「一週間前のこと覚えてる?」

「一週間前…?」

「僕が紀田くんに告白したんだよ。覚えてる?」

僕がそう言うと紀田くんはびくり、と体を揺らした。

「頑張って告白してOKもらえたからすごく嬉しかったのに、何でまだ紀田くんの態度は前と変わらないの?」

「そ、れは、」

「紀田くんはさ、僕が変わったことを認めたくないんでしょ?」

「は?何言って、」

「あのとき頷いたのはやっと僕が変わっていることに気がついたから。でもやっぱり昔の僕でいてほしいんだよね」

「っ、」

「けど僕は今の僕を認めてほしい。だって僕は"今"紀田くんが好きだから」

紀田くんを真っ直ぐ見つめる。多分思っていたことを全部言われて驚いているのだろう。紀田くんは固まったように僕を見た。

「僕、紀田くんに告白したはずだよね?で紀田くんはあのとき頷いたはずだ。あれは紀田くんが僕の彼女になったって意味でいいんだよね?」

「っは!?俺が彼女?どっちかっていうと俺が彼氏―…」

やっと反応を示した紀田くんにまたキスをする。今度は軽いキスだったけどそれでも紀田くんの口を塞ぐには十分だったようだ。

「言ったでしょう?僕は変わったって。僕だってやるときはやるんだから」

紀田くんは唖然としていて、僕は目を細めて笑顔を浮かべた。僕がどれぐらい昔と変わっているのかまでは分かっていなかったらしい。予想外だ、とでも言いたげな顔に顔を近づけ、囁いた。

「僕がいつまでも君に振り回されてるような奴だと思ってたら大変なことになるよ?"正臣"」

そう言って紀田くんの耳を舌でべろりと舐めあげた。顔を真っ赤にして体をびくつかせた紀田くんに僕はにっこり笑いかけた。




僕の心を君はまだ知らない








―――――――――――――
帝人様…ハアハア
最近帝人様が素敵すぎてどうしたらいいか分からない。ていうか帝正流行らないかな。ていうか帝人様攻めがおいしいです〔



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -