人ってものは快楽に弱い。楽しいこと、気持ちいいこと、楽なことに気持ちがいく。人間は三大欲求だってあるんだし、ていうかそれが人間の性だしね。

だから俺は人間が快楽に弱いところを見たい。快楽に勝とうともがくけれど、結局勝てずにいつの間に快楽に従順になっちゃってる、っていうのが俺の中での最っ高のシナリオ。まあこれも一種の人間観察かな。

ターゲット?
もちろん静ちゃんに決まってるじゃないか!ていうか静ちゃん以外興味ないよ。楽しみだなあ楽しみだなあ楽しみだなあ!あの静ちゃんがだよ?あの静ちゃんが快楽に咽び泣く姿を誰が想像できる?

まず静ちゃんを薬漬けにしてわけも分からない状態にしよう。まずはそこからだ。

そのために池袋にくりだす。いつもは池袋に行くとセンサーがついてるんじゃないかって思うぐらいすぐに静ちゃんがやってくるからめんどくさいぐらいなんだけど、今はそれがすごく好都合だ。

さあ早く俺を見つけなよ、静ちゃん。自然と笑みがこぼれる。

しばらく池袋をぶらぶらしていると案の定静ちゃんはやってくる。

「いーざーやーくーん?池袋に来んなって言っただろうがあ!」

はは、ほらやってきた。静ちゃんって馬鹿だね、ほんと!

「やあ静ちゃん。今日は君を探しに池袋に来たんだ。まあ君がそっちからやってくるって分かってたからね!」

「ああ?」

顔に青筋立てながら怪訝そうな顔をする静ちゃん。そりゃそうだ。だっていつも俺は静ちゃんの顔を見たらすぐ逃げてたもんね。それが「今日は君を探してたんだ」じゃ何か疑いたくなるのは当たり前だよね。

「臨也てめえ…何か仕組んでんじゃねえだろうなあ…?」

仕組む、ねえ。まあ仕組んでいるといえばそうだけどね。ニヤリと笑って静ちゃんを見ると静ちゃんは一瞬怯んだようにビクリと体を揺らした。

ああたまらない!これからそんな反応が毎日見れるなんて!今でも俺はぞくぞくしてたまらないのに。

けれど静ちゃんは一瞬よぎったであろう嫌な予感をふりきるかのように頭を振って元の顔に戻る。俺を殺してやりたい、と本気で思っている目。その目が俺を煽ってるとも知らないで、ね。

おもしろい。さっそく作戦実行。

俺は静ちゃん、と呼んでから走り出す。

「あってめえ臨也今日こそ逃がさねえ!!!!!」

静ちゃんがちゃんと俺を追いかけてきているのをちらりと確認しながら、俺は作戦通りに走る。そして作戦なんか知らないはずなのにきちんと作戦通りについてきてくれる静ちゃんにラブコール。

馬鹿な静ちゃん。愛してるよ。

そして路地裏に駆け込む。静ちゃんも俺のあとを追ってその路地裏に駆け込んで、静ちゃんは勝ち誇ったように笑った。

「行き止まりじゃねえかよ、臨也君よお」

そこが行き止まりなのはもちろん作戦の内。俺は笑いを噛み殺して、追い詰められたような顔をする。ジリジリと俺に詰めよってくる静ちゃん。俺はその顔があまりにも自分の状況を分かっていないようで、思わず吹き出した。

「ぶっくっ、あはははははははははは!」

俺の笑い声が路地裏に響く。静ちゃんは眉をひそめて言う。

「臨也てめえ頭おかしくなったのかよ」

「いやいや。静ちゃんがあまりにも今の自分の状況が分かっていないようでさ」

もうそろそろ潮時かな。頭の隅で思う。この状況もおもしろいけどさ。そう思って指をパチンと鳴らす。すると屈強な男が5人路地裏の影から現れる。

静ちゃんはこの状況がよく分かっていないようで、あ?と言いながら辺りを見回したあと俺の方を向いた。

「臨也てめえ…はめやがったな」

「はめた?静ちゃんが勝手についてきたんじゃない」

静ちゃんはギリ…と歯を噛み締めて最高に嫌な顔をしていた。まあそれは俺を最高に煽る顔なんだけど。俺の方も最高に静ちゃんをいらつかせる顔をしてただろう。その笑顔のまま男達に命令する。

「やっちゃってよ」

「あ?」

男達は無言で静ちゃんを取り囲む。そして静ちゃんの手と足をすばやく押さえる。

「んな力で俺を押さえられるとでも思ってんのかよ、臨也あ?」

「まさか。思ってないさ」

だからしばらく寝ててよ。そう言うと男達はすばやく無言で静ちゃんの口元を白い布でおさえた。

「くそっなんだよ、こ…れ…」

静ちゃんは白い布から必死に逃げようとしたけど、すぐに白い布に含ませたクロロホルムが鼻を伝って全身に回ったようだ。くたん、と頭を下げて意識を手放した。

男が俺に言う。

「いいんすか、こんな量かがして…」

「ああ、いいのいいの。だって普通の量じゃ聞かないからね」
 
彼は人間じゃないから、と言って男達ににっこり笑いかける。

「さあ君たちの仕事は静ちゃんをホテルまで連れていくまでだろ」

はい、と男達は返事をして静ちゃんを担いだ。そして人目に触れないよう路地裏の奥へ進んで行く。このあとは男達が俺が指定したホテルに静ちゃんを連れていってくれているはずだ。

これで手筈はととのった。

俺は静ちゃんが路地裏の奥に消えていくのを眺めながら、唇を舐めた。





next




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -