!来神時代の捏造あり







さら、と暖かい風が頬を撫でた。底冷えする2月はもうとっくに過ぎていて、冷たかった風は断然春のにおいを帯びて暖かくなっていた。今日は2月はセーターを着こんでいたが、今日はブレザーとカッターシャツで余裕で乗りきれる気温で、からっと晴れた気持ちいい日だった。

そんな今日は来神高校の卒業式。絶好の小春日和となった。卒業式はついさっき終わったばかりだ。クラスの女子は進路の違う友達と抱き合って泣いていたり、無駄に写真を撮りたがって校内の思い出の場所へ各々赴いているようだった。

新羅は、セルティが待ってるから家に帰るよ!と嬉々として家に帰っていった。ほとんどの生徒が学校に別れを惜しんで残っているというのに、奴だけだろう。卒業式が終わるとともに真っ先に帰った奴は。

門田はどうやら門田の舎弟に連れられてどこかへ行ったようだ。舎弟、というのも門田の人柄に惹かれた2年の奴らのことだ。けれど門田は舎弟とは認めてないらしく、たくさんの人間が門田の人柄に惹かれる理由は分かるからいい加減認めればいいじゃねえかと俺も何度か言ったことがある。

俺はというと、あまり友達もいないし卒業式に来たのは幽だけだし、卒業式の後は暇をもて余していた。このまま帰ってもいいが、せっかくこの学校ともこれで別れるんだからちょっとくらい残っていこうと思って屋上に来ていた。 こんなに天気がいいのに屋上に行かないのは馬鹿だろう。そう思って来てみると案の定屋上は意外と穴場で誰もいなかった。屋上には心地いい風が吹いていて、なぜ誰も来ていないのか、もったいないと思うくらいだった。

屋上から校庭を眺めてみると桜がもう咲いていて、入学式までもつのかとぼーっと考えていた。 そこへ肩にぽん、と手を置かれた感触がした。誰だ?と思いながら振り向いてみるとそこには――

「やあ、静ちゃん」

後ろには爽やかな笑顔で片手を上げるクラスメートがいた。爽やかな笑顔なはずなのにこんなにうさんくさい笑顔にみえる奴は一人しかいない。

「てめえ、臨也」

自分の顔に青筋が立つのがわかった。こいつは顔を見るだけでいらつく。まあ要は俺はこいつが嫌いだ。顔を見るだけでぶん殴りたく…いや、今日はやめておこう。俺は必死に己を自制し怒りを納めた。せっかくの卒業式にこいつと喧嘩して卒業式は気分最悪のものだったという記憶を残したくないという理由もあるが、やめておこうと思った理由は他にもあって。

「あれ?静ちゃん殴らないの?」

普段見たら確実に殴っているようなうざすぎる笑みを浮かべながら臨也は言う。

うざい。うざすぎる。その笑顔のままこいつが屋上から飛び降りたら世の中のためになるんだろうな、と思いながら俺は呟くように言った。

「今日は殴らねえ」

「へえ。何で?」

「…お前、九州行くんだろ」

――――臨也が高校卒業後に九州の博多に行くという話は卒業式の一週間前に聞いた。そのときは勝手に行きやがれとか思っていたが、やはり高校三年間一緒にいたのだから、と思ってしまう。だからだ。だから最後の最後に喧嘩というのもどうかと思ったから俺は今臨也を殴りたくなった衝動を必死に抑えた。

しかし臨也はけろりとして言った。

「ああ、あれ?あんなの嘘だよ」

「は?」

ぽかーんとしてしっかり返事を出来ない俺を見てけらけらと笑う臨也。

「馬鹿でしょ、静ちゃん!あれ静ちゃんからかうための嘘だし。あはは、怒った?」

「―――いや」

俺はそれを聞いてなぜか安心した。何でそんなくだらい嘘を言いやがったとか普段の俺なら怒るだろうが、なぜか今はふっと肩の力が抜けるように安心した。池袋にいればいつでも臨也と顔を合わせることが出来るのか、そう思った。

静ちゃーん?と怪訝そうに臨也は俺の顔を覗きこんだ。

「何で怒らないのさ?」

どうしたの静ちゃん、静ちゃんらしくないよと珍しく焦ったような臨也。

知らねえよそんなの。自分で自分に聞きたいくらいだっての。

なぜ俺は自分が臨也が博多に行かなくて安心しているのか分からなかった。これじゃあまるで臨也に池袋に残ってほしいみたいじゃねえか。

――――まあいいか。珍しく臨也が動揺してるとこも見れたしな。よく分からないがそう思ったのはこの陽気で自分がボケているから、そう思いこむことにしよう。


この気持ちに気づくまで、











―――――――――――――
卒業シーズンに完璧に乗りきれてない感はスルーするとして〔
DVD2巻の特典に萌えたぎりすぎて静臨の卒業ネタを。来神時代の静臨はおいしいですねもぐもぐ。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -