「新羅…!臨也は…!?」
俺は新羅の部屋に飛び込むように入りながら叫んだ。部屋に入るとベッドの上で寝ている臨也とその横に座っている新羅とリビングのソファにじっと座っているセルティが目に入った。
「静雄。もう大丈夫だよ。結構深そうな切り傷があったんだけど縫ったから大丈夫」
「縫うほど深い傷だったのか…!?」
「縫ったって言っても命に別状はないから大丈夫さ」
「そうか…」
ホッとして深い安堵のため息を漏らす。よかった。本当によかった、と固く目をつぶった。
「けどね」
けれど俺はその後の新羅の言葉に衝撃を受ける。
「今日の分だけじゃない、明らかにかなり前から暴力を受けていたようなあとがあるんだ」
「かなり…前から…?」
「うん。体中に殴られたあとがたくさんあって縛られたあととか、多分蹴られたような跡まであるんだ」
それってもしかして…
「多分臨也は今日やられた奴らにだいぶ前からこういうことされてたんじゃないかな…」
違う。違う、その傷は、
「静雄は気がつかなかった?それか奴らに心当たりとか、」
「違うんだ。新羅」
新羅の言葉を遮って否定の言葉を口にする。唇を噛み締めた。言わなくてはならない。新羅に本当のことを。新羅はきょとんとさて言った。
「どういうことだい?静雄?」
「その殴った跡、多分俺がつけたやつだ」
「え?」
「蹴った跡も、縛った跡も、全部俺がつけたやつだ」
「え、それって…」
「俺は臨也に暴力をふるっていた」
そう告げると新羅は固まる。いつの間にかセルティはちがう部屋に行ったようでその部屋には俺と新羅、そして寝ている臨也しかいなかった。
今話すしかない。そう思って全て話した。DVをしだしたきっかけからその間に起こったこと、そして俺なりの結論を出してこの選択肢を選んだということまで。
殴っているときは体が無意識に動いて、落ち着くと自分のしたことにやっと気づいて謝る、の繰り返しだった。そう言うと新羅は、
「典型的なDVだね」
「…ああ」
「なんで言ってくれなかったのさ」
新羅が眼鏡の奥からじっとこっちを見つめる。その目は悲しんでいるのか怒っているのか、むしろどちらでもないような目をしていた。普段はふざけているような新羅にこんな顔をさせたくなかったのに。けれど俺は自分のしたことによって新羅にこんな目をさせている。それが何よりも情けなかった。
「僕は医者だよ?精神科はたしかに専門じゃないけどでも素人でもない。探せばそういうのの専門家も知り合いにいるし、頼ってくれたらどんな協力もしたさ。何で頼ってくれなかった?どうして話してくれなかった?なぜ…っ」
後の方は言葉にならないようで新羅は顔を歪ませて語尾を濁した。
自分で自分が嫌になった。こんなにも自分たちのことを考えてくれている人がいるのに、なぜ自分は一人で抱えようとしてたのか。今頃自分の愚かさに気がついた。
自分にはこんなにも支えてくれる人がいたのに。
「今度からは全部話してくれるかい?」
「ああ。―――本当に悪かった」
そう言って顔を上げると、涙を滲ませて微笑んでいる新羅の顔があった。