イライラする。ひどく。イライラ。イライラ。
俺の視線の先には静ちゃんと田中トム、とかいう静ちゃんの上司がいて。今日も普通に取り立ての仕事をしている静ちゃんを俺はあるビルの屋上から双眼鏡で眺めていた。
双眼鏡に映る静ちゃんは笑っていた。もちろんこんな遠いから聞こえないけど、たぶんトムさん、とか言いながら笑っているのだろう。高校から静ちゃんを見てきた俺すら知らないような笑顔で。
イライラ、する。
ねえ静ちゃん。静ちゃんのそんな笑顔初めて見たよ。そんな顔できるんだ。
静ちゃんは田中トムに絶対的な信頼をおいている。たしかに今までどこの就職先でも静ちゃんのあの力に一度も巻き込まれていない上司というのは田中トムしかいない。静ちゃんをキレさせたことのない上司も田中トムが初めてだ。自分のことを上手く扱ってくれることが、昔から力のせいで周りから疎まれてきた静ちゃんには嬉しいのだろう。
だけど。
だけど、静ちゃんを想ってる気持ちは断然俺の方が上だよ?静ちゃん。時間的にも深さ的にもね。
俺は高校の頃から静ちゃんを好きだった。
いや、好きだなんてそんな安易な気持ちじゃない。手にいれたい、と思っていた。けれどそんなこと無理に等しいから、せめて静ちゃんの中で何かの1番になろうと思った。それがたとえ世界で"1番"嫌いなやつでも構わなかった。だって静ちゃんは俺を見かけただけで俺に物を投げてくる。殴ってくる。池袋に来るなと叫ぶ。それってつまり意識してるってことでしょ?
静ちゃんにほんの一瞬でも思われるだけでいい。そう思っていたのに、田中トムという男は簡単にその願いを叶えることができる。
俺の方が想っているのに。なんでお前が静ちゃんのそんな笑顔を受けることが出来るんだよ。
俺はギュッと唇を噛み締めた。少し血が出たような気がする。けれどそろそろ静ちゃんに会いに行こう、と思った。
俺が静ちゃんの目の前に姿を現せば静ちゃんの意識は一気に俺に向く。しかも田中トムはそれに巻き込まれぬよう遠くへ避難する。
最高の状況じゃないか。
ニッと笑って唇を舐めると血の味がした。
舐めた唇は鉄の味
――――――――――
タイトルまんまですいませ…!