無理矢理犯されたあの日から、週に2、3回多いときは連日続けて、静ちゃんは俺に暴力をふるったり無理矢理セックスを強要したりした。
けれど静ちゃんは暴力をふるったあと、必ず俺を抱き締めてこう言う。
「臨也ごめん…ほんとにごめん…」
典型的なドメスティックバイオレンス、いわゆるDVだとは分かっていた。最近では元夫婦や恋人間の暴力はジェレンダーバイオレンスとかいうらしいが。基本的にDVは男女間では男の女性に対する性差別の意識に起因するものらしいが、ここ最近では男性同士でもDVは起こっているようだ。DVについて一通り調べてみて、静ちゃんが法律的に言えば身体的虐待と性的虐待にあたるということが分かった。
DVなんてする男は最悪、早く別れるべきなんて意見が大半なことも分かっていたし、俺だってこのままじゃ正直しんどい。
普段は普通の静ちゃんなのに、ちょっとしたことでキレて暴力をふるう静ちゃん。DVを受けている間はひたすら静ちゃんが早く元に戻るように願う。
静ちゃん、早く元の静ちゃんに戻って、と。なぜだか分からなかったけど俺に別れるという選択肢はなかった。静ちゃんはキレなければ優しい静ちゃんなのだ。大好きな優しい静ちゃんなのだ。
こんなに暴力をふるわれたりしているのに別れない俺は自分で自分を心底ばかだと思った。暴力をふるわれてもそれでも好きだなんて馬鹿の極みだ。どこの高校生だよ、と自嘲する。自分がここまで静ちゃんに惚れていたなんて。
静ちゃんが俺をまだ好きかは分からない。暴力をふるっているときの静ちゃんはもっと分からない。
けれど俺はDVを受けたあとに必ず抱き締められるあの暖かい優しさに依存していた。おかえり静ちゃん、戻ってきてくれたんだね。そう思いながら俺は意識を手放す。そんなことの繰り返しだった。
殴られても、蹴られても、どれほどひどい行為を強要されても俺は静ちゃんを嫌いにはなれなかった。
大好きだった。
いつかまた昔の静ちゃんに戻ってくれるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら静ちゃんと付き合って1年が経った。
もうこのままでもいいかもしれない。そんな風に考えるくらい感覚が麻痺した頃、静ちゃんに呼び出された。
三月も末だった。