未来の僕はヒロインに恋しない


喉元に押し寄せる熱を吐き出す。

その日はなんてことのない暑い夜だった。
胃を冷やしてしまうよ、と甘すぎるアイスティーを指して笑っていた彼女。
そんな彼女が向かいに座ったとき、香ったのは鉄の錆びた戦のニオイではなかった。

僕が眉間に皺を寄せると、彼女は嘲笑した様子で掌の内に輝く宝石を見せた。
月明かりに輝く輪は美しいのだろう。

「笑わせますね」

君が花嫁なんて。
目の前で人のアイスティーを胃に収める彼女を見て言葉を吐く。
ああ、全く不快だ。
人のアイスティーを勝手に飲む花嫁があるか。

「どっかのファミリーの、偉い人なんだって」

マフィアがマフィアと結婚するのは別に少ないことじゃない。
ただ、永続する夫婦になることができた例は聞いたことがない。
複雑な人間関係に耐えられず破局、お互いに殺し合うなんていう話も聞く。

彼女がテーブルの上で転がす輪が、脳内で繰り返される。
沢田綱吉の犬に聞くと、彼女に輪を渡したのは同盟を組んでいる所の幹部なんだそうだ。

底に沈殿した砂糖を見てから、大きな門に視線を投げる。
真っ黒な車の近くに立つスーツの男は確かに見覚えがあった。
まるで何処かのお嬢様のようなスカートを穿いた彼女はとても無味な表情をしていた。

こちらをゆっくりと見上げたかと思うと、泣きそうに笑って四文字。

ご・め・ん・ね

気が付いたら頬を涙が伝い落ちて黒い手袋がそれを弾いていた。
流れても流れても止まらないそれを誤魔化すように、後ろの長い髪を解いて背を向けた。

銀色のそれはその日の輪を思い出させた。
消えてしまえとそれを外に投げると、門の所でそれが輝いたのが見えた。
普通の花嫁ならば取ることはできないだろうそれを軽く取ったのは紛れもない彼女。
強風に煽られる髪を払って部屋のベッドに倒れ込んだ。

その夜、黒いハットの男に渡されたのは見覚えのある浅葱の髪留め。
彼女が毎日身に付けていたというのに、それは霞むことなく輝いていた。
彼女の美しい髪にはそれが嫌味なまでに栄えていた。

どうして、コレを僕に渡すのか。

来世でまた会うことが出来たなら、何百年もの愛を込めて問うてみようか。

何百年も前から、何千年経とうとも。





えめらるど
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