※死ネタ注意




二ノ坪怪士丸くんへ

怪士丸くん、お元気ですか。

私は元気です。

最近、体の具合も良くて、よく一人で売店に行っては、家族や看護師さんに怒られています。

いくら入院患者だって、ずっと独りでベッドに寝ててもつまらないんだから、自由に動いてもいいじゃないのよね!

……なんてワガママ言ったら、また君は「大人しくしてて下さいよ」って、困った顔で優しく諭してくれるんでしょうね 。

思えば、出逢ってから私は、君に迷惑をかけっぱなしでした。

覚えていますか?

半年前に、君は怪我をして入院した友達…伏木蔵くんの見舞いに来ていましたね 。

偶然にも、私と伏木蔵くんは仲が良かったから、突然遊びに来た私を彼が君に紹介して…それから私のお見舞いにも来てくれるようになった。

いつもワガママばかりの私を、優しく諭してくれる君。

私の方が少しだけ年上なのに、まるでお母さんが二人できた気分でした。

伏木蔵くんの怪我が完治して、彼が退院した後も、私に会いに病院に来てくれましたね。

怪士丸くんに会うことが、いつの間にか私の日課になり、楽しみにもなりました 。

でも、その間に何度も発作を起こして、君を驚かせて泣かせたり怖がらせたりしてしまいました。

ごめんなさい。

そして、もう一つ謝ることがあります。

あの日、君に冷たく当たったり、「もう来ないで」なんて言ったりしたのは、決してあなたが嫌いになったわけじゃないの。

お医者さまに言われたの。

余命はあと、二週間です、と。

私は、絶望しました。

死んだら、もう君に会えない…。

それが怖くなったのです。

私に、好きだと伝えてくれた君。

君を…怪士丸くんを傷つけたくない。

そう思った私は、あなたを突き放すことにしたのです。

私に会わなくなれば、これ以上私達の思い出は増えない。

未練がなくなる。
そう考えたのです。

でも、結局は私の勝手な自己満足に過ぎませんでした。

あれから数日後、伏木蔵くんがお見舞いに訪れてくれて、君の様子を教えてくれました。

怪士丸を傷つけた貴女は最低です。

貴女を許しません。

そう彼は言いました。

私はそこで、自分の愚かさに気づいたのです。

謝りたくても、もう自分は君には会えない。

だから、今回ペンを取り、手紙を書いて、伏木蔵くんに預けました。

だから…これを読んでいるということは、私はもうこの世にはいないんでしょう 。

最初、元気ですと書きましたが、だんだんと手紙を書いている手が重く感じます 。

心なしか、体もだるくなってきました。

薬と病気の影響でしょう。

もうじき、私は動けなくなる。

その前に、伝えたいことがあるのです。

こんな紙切れで許してもらえるなんて思っていませんが、これだけはあなたに伝えたいです。

ずっと弟みたいに扱っていましたが、本当の想いがわかりました。
怪士丸くん…私は、



あなたのことが好きでした。






彼女の墓前。

僕は、手紙を握りしめたまま、泣き崩れた。

伏木蔵は、ただ黙って僕を見下ろしている。

彼女が…名前さんが、亡くなった。

それを知ったのは、昨日の放課後だった。

伏木蔵の携帯に、彼の先輩で、名前さんの担当医でもあった伊作先輩から連絡が入ったのだ。

彼女と仲が良かった伏木蔵だから、先輩も連絡をしたんだろう。

彼女の死を知った時には、もう葬式も納骨も終わっていた。

僕は名前さんの死に目どころか、別れすらも言えなかった。

彼女は、生まれつき心臓に疾患があった。

元々、永く生きられる体ではなかったらしい。

最初は、手のかかる姉のように思っていた。

けれど、その想いは少しずつ変化して、いつしか恋心になっていた。


『僕は、あなたが好きです』


あの日、僕が最後に伝えた言葉。


『もう来ないで』


あの日、彼女が最後に伝えた言葉。

あれ以来、僕は名前さんに会いに行かず、ただ気を落とし、周りの友人に心配をかけてばかりだった。


「……怪士丸」


ずっと黙っていた伏木蔵が口を開いた。

そっと見上げると、伏木蔵は僕の方ではなく、彼女のいる墓を見ていた。


「名前さん、さ…僕にこの手紙手渡した時、初めて目の前で泣いたんだ」「………」
「いつも飄々として、笑ってたのに…泣いてたんだ」
「……………」
「怪士丸に会いたい、って…」


ボロボロと零れる大粒の涙。

高校生にもなって、みっともないと思うくらいに泣いた。

どうして、彼女だったんだろう。

どうして、人はこんなに簡単に死んでしまうのだろう。

どうして、会いに行かなかったんだろう。

どうして、どうして…と頭の中で繰り返される。

好きだった。

他の誰よりも、貴女が好きだった。

ただ普通に、

出逢って、

恋をして、

愛し合って、

共に生きていきたかった…。

もう僕は、貴女を愛することはできないのか。



好きだった、愛したかった



(それでも、僕の想いは消えないだろう)


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