季節は冬。時刻はもう午後9時手前で、今日も疲れたと私は気力だけで真っ暗な帰路を突き進んだ。高校を卒業してすぐに就職して2年目、やっとこの仕事にも慣れてきた所だ。寒さと少しの寂しさを供にそういえば今日は、金曜日だったと思い出す。

金曜日だから多分彼は来るのだろうな、と思った私は少し早足に歩く。

実家暮らしの私はただいまの挨拶も無しに、ドタドタと階段を駆け上がり2階の自室を目指す。案の定そこには蹲っている男、黒門伝七がいた。私こと苗字名前と黒門伝七は幼馴染で、家は窓から行き来できるほどの近さにある。彼は私と違い大学へと進み今は楽しいキャンパスライフを送っている、と思う。

「ねえ、今日はどうしたの」と私が蹲っている彼に問いかけると彼は、ビクリと体を震わせた後「・・・うっ・・・ひっく・・・えぐ・・・」と嗚咽を漏らし始めた。彼は毎週金曜日、決まって私の部屋にやってきてその一週間の懺悔をする。 

彼は昔から整った顔をしていた、顔は中性的で肌は女の子顔負けなほど綺麗で、シミなどは何処にも見当たらない。それに彼は恐ろしく勉強のできる男だった。スポーツもそこそこに出来て話しも上手い。そんな男を世の女性達が放って置くはずも無く、それはそれはモテた。

だがそんな彼にも欠点があった、彼は恐ろしくプライドが高かったのだ。そのせいなのだろうか、彼が昔から付き合う女の人は顔の良い女性ばかりだった。そしてもう一つ、彼は断るという事が最も苦手なのだ。これはプライドが許さないのと本質の優しさが相まってだろう。このせいで彼は女性に何股もかけていた。

そして彼はとても気が弱かった。プライドは一人前なのにとてもとても脆く崩れやすい人間だった。今泣いてるのだって昔から私が彼の弱い所を知っているから泣いているのだ。いつもの彼ならこんな所を他人に見せるなんて彼のプライドがそうさせないだろう。そんな、弱く儚い彼を見ているとどうしても私は口角が上がってしまうのだ。

「伝七、泣いてても何にも分からないよ、今回はなあに?」「・・・うえ・・・ふっ・・・ぐずっ・・・」「ちゃんと聞いてあげるから、ほら」と私は彼の隣に静かに腰を下ろす。

「また、泣かせた・・・ぐすっ・・・だって、僕が・・・何股も、かけてるの・・・ぐずっ・・・知ってて、付き合うってえ・・・言ったのにぃ・・・うっ・・・」

この通り彼はこのプライドと気の弱さの板ばさみに合っていつもグラグラと不安定なのだ。そして優しい彼は人を傷付けることに何度やってもなれないのだ。だから毎週毎週この一週間、生まれた罪悪感でついた傷を私の前で曝け出し痛い、痛いと泣いて崩れるのだ。私はそんな馬鹿な彼がとても愛しいのだ、とてもとても。

「・・・ぐすっ・・・もう・・・ずるっ・・・いやだあ・・・」「へえ、」「・・・ぐずっ・・・もう、泣かせたくない、よお・・・ふっ・・・うっ・・・」

ぼとぼと、と涙を落とす彼を横目に、私はこんなに可愛い彼を昔振ったんだと思い出す。確かその後彼は女性に何股もかけるようになった。きっとそれが初めて彼の人生でプライドが崩れた瞬間だったのだろう。これは私が引き起こしたとも言える、最低なサイクルなのだ。

でも、私は後悔などしていなかった。彼は私以外にこうやって弱い部分を見せることがプライドが故出来ないのを知っていた。だからそんな彼にただ弱さを曝け出せれる場所を私は作った。すると彼はたちまち私に依存し、離れられなくなった。すると気の迷いで告白してきた頃よりも強く切れにくいドロドロしたもので繋がる事が出来たのだ。私はこのときをずっとずっと待っていた。

嗚呼やっと、この気持ちが伝えられる。

「ねえ伝七、それなら私と付き合いましょう。私は伝七の弱い所も考え方も分かってる、大丈夫伝七を泣かせたりしないわ。」そう言って私は彼のどこか女性的な手をそっと包む。 貴方にあげるのはこの数年間溜まった気持ちよ、だから伝七。この数年の穴を埋めて溢れさせる程の愛を頂戴。 


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