鳥がよく鳴いて、太陽の陽が少し暑いと感じる季節になった。町のあちこちには、季節遅れの服や靴が割引の文字を掲げて並べられている。それに張り合うかのように、季節を先取りした服や靴も、手に入れやすい値段で売られていた。


「あ、また浮気してる」


前を歩いていた伏木蔵が言った。顔を向けると、やわらかそうな頬をぷくぷくと膨らませて不機嫌そうにしていた。


「最近またきょろきょろし出したよね。そうやって君は他のものに心を持っていかれて、僕から離れて行くんだ。あ〜、考えるだけですごいスリル〜」

『浮気じゃありませんー、春物が出てたから見てただけですー』

「言い訳は聞き飽きたよ」


3月になって何度このやり取りをしただろうか。私が伏木蔵から目を離すと、決まって彼は「浮気だ」と私を冷やかすのだ。正論を返してもこの調子。彼曰く「こう言うと、スリルを感じるでしょ?」だそうだ。昼ドラのようなどろどろした関係でも欲しているんだろうか…残念ながら、そうだとしても浮気相手は無機物だ。とんだ変人扱いである。


「そういえば、この先に新しいカフェが出来たんだってさ。君が好きそうなメニューがたくさんあったよ、行ってみる?」

『ちゃっかり下調べしちゃって…あーあ、伏木蔵も浮気だー』

「あー本当だ〜。僕たちお互いに浮気者だぁ…どうしようか?」

『どうしようかって何?まさか破局?無機物への愛に生きた女とカフェへの愛に生きた男がついに破局?』

「面白ーい、今度 乱太郎に聞かせてあげよーっと」


きゃっきゃと盛り上がる私たち。こんな話題で盛り上がれるのはきっと私たちだけだろうな。


『伏木蔵といると本当飽き無いわ』

「それはそれは」

『伏木蔵、大好きだよ』

「わー、こんな街中で好きだなんて…大胆」

『伏木蔵はー?』

「もちろん大好きさ、本当に浮気したら絶対許さないからね?」


目を細めてふふん、と笑って見せる伏木蔵に思わず頬が緩む。


「僕から離れないでね」

『よく言うよ』





×