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  甘い魔法をかけて @


「……なぁ光」
「なんすか」
「それ…苦ない?」

 それ、と謙也さんが指差した先には俺が頼んだブラックコーヒー。
 ちなみ今、俺と謙也さんは所謂デート中であり、歩き回った休憩としてファミレスにいる。それぞれが好きなものを頼んで、ちょっと一息をついたところで冒頭の謙也さんの台詞に戻る訳や。

「いや別に…そんなことないっすけど」
「嘘つけ!大体中2でブラックコーヒーってお前…どんだけ大人やねん!」
「はぁ、どうも」
「いや、別に褒めてへんから!」

 俺は思ったことをそのまま口にしてたんやけど、謙也さんはすかさずツッコミを入れてくる。
 ビシッ!と効果音が付きそうなくらいの勢いで俺の目の前に置かれている真っ黒な飲み物、もとい、ブラックコーヒーのことを指差し「ありえへん!」と叫ぶ謙也さん。相変わらず騒がしい人やな。

 そんでそのままぎゃいぎゃいと「大体光は…」なんて関係ない話をし始めた謙也さんをガン無視して、そんなにありえへんかな、と目の前にあるブラックコーヒーをじっと見つめる。
 謙也さんはどうにもこれが苦手らしい。俺がコーヒーを飲んでるところを見て顔をしかめることもしばしばあるくらいだから相当だと思う。
 きっと本人は無自覚なんだろう。別に自分が飲んでる訳じゃないのに苦そうに顔を歪める謙也さんは見ていて面白いから俺は何も言わないんやけど。
 まだ何か言っている謙也さんを盗み見て、ホンマにかわええ人やなぁ、とかぼんやりと思う。
 なんか俺、病気になったみたいに謙也さんのことかわええって思っとるな。やばいって自覚ないし、もう末期か。
 俺がそんなアホなことを考えていると、俺がぼーっとしていて話を聞いていなかったことに気がついた謙也さんが頬を膨らませてこっちを睨んできた。あんたは小さい子供か。

「光!聞いとる!?」
「聞いてますよ。謙也さんはコーヒーの美味しさがわからない子供味覚っちゅー話ですよね」
「ちゃうわ!全然聞いてへんやんけ!っちゅーか子供味覚ってなんやねん!まだ俺ら子供やん!」
「いや、そうだとしても謙也さんはそれ以上に幼稚すぎるんすわ」
「ちょ、そこまで言う?だって美味しくないやん、コーヒー…」
「いや、普通に美味しいですよ」
「え〜…俺にはわからんわぁ…」

 一応反論して、見せつけるようにコーヒーを飲んでみたら案の定謙也さんは顔をしかめた。そしてそのままわからんわからんと連呼する謙也さん。
 人が現在進行形で飲んでるのに何だろうその言い様は。なんか少し癪に触るわ。
 というか、さっきから謙也さんはコーヒーの美味しさがわからんって言うてるけど、俺には謙也さんの目の前に置かれてる緑色の飲み物の美味しさの方がわからない。理解したいとも思わない。

「…コーヒーより青汁の方がどうかと思いますわぁ…」
「なんやと!?青汁美味しいやんか!」
「いやいやないっすわ」
「体にもええんやで!?」
「部長じゃあるまいし」
「あ、あとは…ほら緑やし!」
「だからなんすか」
「ゔ…」

 謙也さんは青汁の素晴らしさを必死に伝えてくるけど俺はそれを一刀両断。バッサリと言い捨ててやる。
 だって美味しくないやん、あれ。前に謙也さんにめっちゃ進められて、ずっと嫌や言うてたんやけど一口だけ飲んだことがある。けど、独特の味にあえなくリタイア。いや、これ冗談やないで。
 とにかく、俺は青汁なんてまっったく、これっぽっちも、美味しいと思わない。謙也さんには悪いけどな。
 でも謙也さんはどうしても俺に青汁の美味しさを理解してほしいらしく、どうしたものかと唸っている。

「うーん…どうしたもんかなぁ…」
「くどいですよ謙也さん」
「やって!俺光と一緒に青汁飲みたいんやもん!」
「俺は別に飲みたくありません」
「ひっど!」
「だって嫌なもんは嫌なんですもん」
「ううー…光が冷たい…」

 また素っ気なく返事を返していたら、謙也さんは机に突っ伏してうじうじし始めた。「おいしいのに…」とかぶつぶつ呟いているのが聞こえる。
 まあ正直なところ、俺と一緒に青汁を飲みたいっちゅーのはかわええと思ったし、色々と揺らいだんやけど。
 でもやっぱあの味は駄目や。いくら謙也さんが可愛くてもキツいもんはキツい。甘かったらいくらでも飲んだるんやけど。

 そこでふと、あることを思いついた。

 これは我ながらナイスアイディアやな、と心の中で自画自賛する。謙也さんは絶対嫌がるやろうけど。

「……謙也さん」
「んー?なんや?」
「青汁飲んでもええですよ」
「っほんまか!?」
「ただし、」

 俺の言葉に謙也さんはぱっと顔を上げて嬉しそうに笑う。でもすぐに俺が後から付け足した「ただし」に不思議そうな顔になった。頭の上にはてなマークがついてそうな感じや。うん、かわええ。
 くるくると表情を変える謙也さんは見ていて飽きないし、めっちゃかわええ。
 きっと次の俺の言葉を聞いて顔を真っ赤にするんだろう。

 そんなことを思いながら、俺は謙也さんが聞いたら爆弾発言って言うようなアイディアを口にした。

「?ただし?」
「口移しで飲ませて下さい」

 にっこり。俺の笑顔に効果音をつけるなら、そんな感じやと思う。



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