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  光と謙也


今日は3月14日。ホワイトデー。
男子がバレンタインの時の返事をする日…もしくはお返しをする日である。
ちなみに俺は本来ならお返しをする側だが、今年からはお返しされる側や。

…………んで、今さっき恋人からお返しなるものをもらったんやけど………………



「………光、これ……暗黒物質?」
「ちゃうわボケ」


……ですよね。


睨みのきいた光の返しに乾いた笑いを返しつつ、真っ黒に焦げた、なんかよくわからんお菓子(…だと思う)を見て俺は心の中でどないしよ…と冷や汗をかいた。

え、ホンマに待って。俺はどうすればええの?

確かに渡すのを渋る光を急かして、「どうなっても知りませんよ」って言われてこれを渡されたのだけど。
どう反応していいものか…

「…ええですよ、別に無理しなくても。不味そうでしょ?それ」
「へ?」

ぐるぐると考えを巡らせていたら、今までずっと無言だった光がふいに口を開いた。光は気まずそうに視線を逸らしているから目は合わない。

「…その…謙也さんがバレンタインに手作りのものくれたから俺も、せっかくだから作ったもんあげたかったんすわ。……でも、見ての通り失敗してもうて。ちゃんとしたの買い直す時間もなかったし…」

ああ、なんや…そういうことか。

光から理由を聞いた俺は、今まで手にしたまんまだった失敗作のお菓子を口の中に放り込む。

それに気づいた光はぎょっとして俺に掴みかかってきた。

「ちょっ…謙也さん…!?不味いでしょ!捨てなアカン!!」
「ええの」

光は必死に口の中のものを出させようとするけど、俺はそれを無視してもぐもぐと食べ続ける。

ごくん、と全部飲み込んでから光の方を見ると、光は「なにやっとんの…」とでも言いたげな顔をとしとった。けど、俺はそれを気にせずに思ったことを口にする。

「光が、俺の為に何かしてくれったっちゅーことに意味があんねん!だから、その……嬉しかったから、これでええの!」

勢いにまかせてそこまで言うと、光は急にへなへなとしゃがみこんでうずくまってしまった。
いきなりだったからびっくりした俺は焦って光の名前を呼ぶ。

「ひ、光?」
「…あー…もう…殺し文句っすわ……アンタホンマに可愛ええな…」

しゃがんだ光に合わせて俺も座り込むと、なるほど。光の耳はみたことないくらい真っ赤になっとった。
いつもクールで余裕たっぷりな光がこんなになるなんて珍しくて思わずふは、と笑ってしまう。だって光がなんか可愛ええんやもん。

「光も可愛ええでー」
「…んでやねん…」
「なんでもや!」
「………謙也さん」
「ん?なんや…んぅ」

クスクスと笑いながら光の頭を撫でていると、ずっと俯いていた光が急に顔を上げた。そして次の瞬間には唇に触れるだけのキスをおくられる。

「おおきに」

本当にお礼を言わないといけないのは俺の方なのに、光がとびきりかっこええ笑顔でそう言って、俺のことをどろどろに甘やかしてくれたのはまた別のお話。



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