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  10年後の君にこんにちは


 きちんと閉めていなかったカーテンの隙間から陽の光が差し込んできて、俺に朝がきたことを教える。
 ああ、もう朝か。
 そんなことをまだ覚醒しきっていない頭でぼんやりと思う。本当はもうちょっと寝ていたいところだけど、今日もやることは山積みな訳で。俺は気だるさの残る体を叱咤して起きようと体を動かした。
 したのだが。

「────ッ!」

 ちょっと体を動かしただけで下半身に物凄い激痛が走る。起こしかけていた体は途端にベッドに逆戻り。俺は腰を押さえながら痛みに悶えた。
 そうだ、忘れてた。昨夜はこの隣で安らかに寝てる恋人に、容赦なくヤられたんだった。
 痛みに打ち震えながら俺は隣で寝ている恋人を叩き起こして文句のひとつやふたつ言ってやろうともう一度、今度は慎重に体を起こした。そして耳元まで口を近づけて、

「起きいや!光!!」

 思いっきり叫んでやる。
 寝ている人間にやることじゃないって思われるかもしれないけど、光は寝起きがめっっっっちゃ悪い。そりゃもうちっちゃい「っ」を4つつけたくなるくらい。
 まず普通に起こしても絶対起きないし、起きたとしてもしばらくぼーっとしてて使い物にならない。だから最近はこうやって起こしている。
 まあこれやると人を眼力で殺せるんちゃうか、ってくらいの勢いで睨まれるんだけど。でもこうでもしないと起きないんだからしょうがないっちゅー話や。

「…………ん゙ー…朝…?」
「そう!朝や!!ほら起きて!」
「あー…わかりましたから……そない耳元で叫ばんといて…」

 ここでいつも光のもの凄い睨みが……………ってあれ?

 いつになく聞き分けのいい光の返事に俺は思わずきょとんとしてしまう。
 だっていつもなら「うるさいっすわ…」ってめっちゃ睨んでくるし、どこにそんな力あるん?ってくらいの力で手首をギリギリ掴んでくるしで、本当にタチが悪いのだ。光が目ぇ覚めていつも通りになっとる時にはタフな俺がくたくたになるくらいに。
 それなのに今日はどうしたんだろうか。妙に素直だ。なんや、天変地異の前触れかなんか?

 そんな失礼なことを(でも割りと真面目に)考えながら、もぞもぞと布団から起き上がった光を見上げる。



 ……ん?見上げる?



 ちょっと待て。なんかおかしい。
 本人に言うと怒るからあんまり言わないけど、光は俺より10センチ背が小さい。だから必然的にいつも俺が光を見下ろす形になるんだけど、何故か今は俺が光を見上げてる。
 まあ確かにベッドに寝てるときは同じくらいの高さになるんだけど。今は2人ともベッドに座っているから、いつもなら俺が見下ろす形になるはずだ。
 なのに、俺が見上げる形とはどういうことなのだろうか。

 え、ちょ、ホンマになんで?わけわからん。

 呆然と光を見上げていると、光も何か違和感に気づいたらしく訝しげにこちらを見つめてきた。
 あ、あかん。なんか光、昨日よりかっこよくなってない?いや、いつもかっこいいだけど。大人っぽいっちゅーか、色気がいつもの培くらいある感じ…?

 呆然から一転、じっと光を見つめていると、今までずっと黙ってた光がやっと口を開いた。

「………謙也さん、なんか若くなってません?」
「はい?」

 光の言葉に俺の目は点になった。いや、実際にはなってないけどな。表現としてはそんな感じ。
 だって光がわけわからんこと言いだすから。
 なんやねん、若くなったって。俺はまだ14だし、若いに決まっている。なに、まだ寝ぼけとるんか?

 首を傾げている俺をよそに、光はさらに言葉を続け始めた。

「つーかここ………俺の、部屋?」
「んん?」
「……昨日は俺、謙也さん家に泊まりましたよね?」
「え、ええ?」
「なんで俺の実家の部屋……てか、今は隼の部屋だけど…」

 寝ぼけてるにははっきりとした口調で光が随分と電波なことを言い出した。
 確認するが、昨日は光の部屋で所謂お家デートなるものをして、成り行きでそのまま泊まった。だから俺の家になんて行っていない。
なのに光は昨日俺の家に泊まったと言っている。しかも自分の部屋を『俺の実家の部屋』と言った。確かにここは光にとって『実家』というべき場所だが、今実際に住んでいるのにそんな言い方をするだろうか。
 そしてなにより、ここが隼くんの部屋だという。
 あ、隼くんっていうのは光の甥っ子くんのこと。光にめっちゃ似てて、めちゃくちゃ可愛いい男の子、今は4歳。

 もう一度言う、隼くんはまだ4歳である。

 前に会ったときもお母さんもとい光のお義姉さんや光にべったりの甘えん坊で、とてもじゃないがひとり部屋なんて無理な感じだった。まあそもそも部屋が足りないと思うけどな。
 まあつまりなにが言いたいかと言うと、ここが隼くんの部屋なんてありえない話だという事だ。

 さすがにもう黙ってられなくて、俺は光にツッコミをいれる。

「隼くんはまだ4歳やんか。なんやねん、ここが隼くんの部屋って」
「…は?謙也さん寝ぼけてるんすか?隼は今年で14ですよ」

 寝ぼけてんのは光の方やろ。
 14ってお前と同い年やん。なにそれどんなマジック?

 頭に浮かんだ言葉を口に出す事も出来ずに、俺は光の言ったことの意味がわからなくてフリーズした。
 なに、どういうこと?隼くんが14って今から10年後にならないと………。

 10年後?

 不意に浮かんだその言葉に、この前読んだ漫画のアイテムが頭をよぎった。
 いや、そんな、まさか。ありえへん。
 でも実際、光とは話が通じてないわけで……

「…ひかる」
「なんですか」
「自分、今、何歳…?」
「は、……謙也さん、ついに頭がいかれましたか」
「やかましい!いいから、早く!」
「………24、ですけど」

 俺の必死な様子にただならぬものを感じたのか、光が渋々歳を教えてくれた。
 その教えられた数字に俺はくらりと眩暈を覚える。


 ああ、神様。なんですか、この状況は。
 いくらなんでもありえん。どんな悪質なファンタジーや。


 朝起きたら恋人が、光が…………10年後の姿になってるなんて。



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