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  忍足と跡部


「なぁ、跡部。ぎゅーってしてもええか?」

出た。忍足の言葉を聞いた瞬間そう思った。
こいつは二人きりになる度に、こんな甘えたことを言ってくるのだ。恋人同士の触れ合いは大切だなんだと言っていたが、俺からしたら冗談じゃない。
ふい、とそっぽを向いて、俺はいつもと同じ言葉を口にする。

「いやだ」

だが俺の言葉に効力などはない。
忍足はいつも、俺の言葉など聞こえていなかったかのようにさっきのような言葉を繰り返すのだ。最終的に俺が疲れてされるがままになるくらい。
だが、いつもだったらすぐにでも次の言葉を返してくる忍足が、今日はなんだか静かだった。

「……そっか。じゃあええわ」 
「え、」

返ってきた言葉は、いつもとは真逆の内容で。びっくりした俺は思わず忍足の方を振り返る。

「なんや?なんかまずかった?」
「あ…いや…」 

視線の先には、わざとらしい笑顔で首を傾げる忍足の姿。それをみた途端、してやられたことに気がつく。
普段は嫌だと言っても抱きついてくるから、完璧に油断していた。小さく舌打ちをひとつする。
まさかの忍足の言葉に、無防備な反応を返してしまった俺のことを、忍足をがにやにやしながら見つめてくる。どうやら忍足は俺が今何を思ったのかすべてわかってしまっているようだ。
…くそ、癪にさわる胡散臭い表情しやがって。その眼鏡割ってやろうか。
そんな悪態を心の中で呟く。

「あーとべ?」

相変わらず意地悪げに、楽しそうに笑う忍足に、ふつふつと仕返ししてやろうという気がおきてきた。
やられっぱなしは性に合わない。こいつの、驚く顔を見ないと気が済まなかった。

「……侑士」

ぽつりと名前を呼んでから、思い切り忍足を引き寄せる。

「どうしたん、あと…」

忍足の声が途切れて、軽いリップ音が部屋に響く。忍足の唇から自分のそれを放すと、忍足はぽかんとした間抜け面のまま固まっていた。
まさか俺の方からこんなことをされるとは思っていなかったんだろう。少し得意になった俺は満足げに忍足を見やる。

「感想はどうだ、アーン?嬉しくて言葉も出ねえか」
「………ぶはっ、やっぱ景吾には敵わんなぁ」
「当たり前だ、ばーか」

おかしくてたまらないという表情で笑う忍足に向かってにやりと笑ってやると、忍足からお返しのキスが飛んできた。



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