note

  surprise ×××! A


 がたん。

 せっかく寂しさを忘れて心地よく寝ていたというのに、オレは物音に起こされた。窓を見てみると外はすっかり真っ暗だ。時計を見ると現在午前0時23分。どうせなら朝まで寝ていたかった。そんなことを思いながらオレはこんな時間に起こされた原因である物音の正体を暴くために耳を澄ました。
 ハッピーが帰ってきたのだろうか?最初はそう思ったのだがどうやらそれは違ったようで、人の足音が廊下から聞こえてきた。
 物音の正体がわかったオレは布団の中で僅かに身構える。この家はハッピーとオレの二人暮らしだ。他に人はいない。…と、なるとこの足音は泥棒とかそういう類いの者のものである可能性が高いことになるからだ。
 よし、この部屋に入ってきたらとっちめてやろう。丁度今日(正確にはもう昨日だが)の鬱憤も晴らせるし。とりあえず一発ぶん殴ろう。
 そんな物騒な考えを巡らせている内に、部屋の扉が開く音が聞こえた。足音が、近い。

「うちに入るとはいい度胸じゃねぇか、覚悟しろこの不審者め!!」
「うお!?」

 ベッドの近くで止まった足音に勢いよく飛びかかる。そしてそのまま床に押し倒してマウントポジションを確保。
 よし、これで気兼ねなくボコボコにできる。そう思ったところでオレはある違和感を感じた。あれ、オレこの匂いどっかで…?

「…いきなり何すんだナツさんよぉ…」

 聞き覚えのありすぎる声が下から聞こえてきてオレはバッと押し倒している人物を見下ろした。暗闇に慣れてきた目に映ったのはまぎれもなくオレのクリスマスを台無しにしてくれた恋人がいて。オレは言葉を失った。

「な、んでグレイがここに…?」
「何でも何もねぇよ…いきなり飛びかかってきやがって。頭打ったつーの」

 ちょっと、待て。理解が追いつかない。どういうことだ?グレイは、仕事のはず。しかもクエストは少なくとも三日はかかるものだった。それは間違いない。オレもその紙見たし。それなのに、どうしてここに。

「あのクエスト…三日かかるって…」
「あ?あー…あれな。24日中に帰ってくる為に死ぬ気で終わらせた。つってももう日付変わっちまったけどな」
「…は?」

 ますます意味がわからない。別に三日かけてやってきてもいいだろ。どうせ用事も約束もないのに。

「なんで?」
「なんでって…お前がクリスマス一緒に過ごしたいって言ったからだろうが」

 …………………。
 ………コイツ…自分で断ったくせして何言ってるんだ…。
 ここまで聞いてさっきまでおさまっていた怒りがまた沸々と込み上げ始めた。もう我慢することもないだろう。どうせ本人が目の前にいるんだ。怒りをぶつけるにはもってこいな状況じゃないか。
 そう思うのに、怒号をとばしてやろうとしたのに、オレの口から出た声は怒声とは程遠いか細い声。

「……っ…今さら…!」

 今さら、何を。
 せっかく楽しみにしていたクリスマスの計画をぶち壊しにされて。昨日からこんな時間まで一人で過ごすことになって。ずっとグレイが恋しくて、寂しい思いをたくさんしたというのに。
 止まらない本音と涙。いつもならこんなこと言わないのに、涙なんて絶対流したりしないのに。

「ナツ…」
「…馬鹿、グレイ……」
「ごめんな、ナツ」

 勢いにまかせて思っていたことを全部吐き出してしまったオレは気まずさから悪態を口にする。するとグレイが頭上で僅かに苦笑したのがわかった。今さらだけどなんか恥ずかしい。
 気恥ずかしくて顔をあげられずに俯いていると、ふいにグレイがオレの左手を持ち上げた。例えるなら、まるで王子様がお姫様にするように。

「?グレイ?」
「今日な、クエストに行ったのはこれ買うためだったんだよ」

 そういってグレイはごそごそとポケットを漁る。お目当てのものはすぐに見つかったようで、「あったあった」なんていいながらグレイは嬉しそうに笑みを浮かべる。
当然、オレの頭にははてなマーク。とりあえず、訳のわからないままグレイの行動をじっと見つめることとなった。
 つい、とオレの左手を引き寄せて、グレイが指に何かをはめる。

 ……ん?指に、はめる?

「は、え…?これって……」

 オレの左手の薬指にはめられたのは、コバルトブルーの石をあしらったシルバーリング。訳が分からなくてオレの頭にははてなマークが飛び交う。

「これをな、クリスマスにナツにあげてぇなってずっと思ってたんだ。でも意外と高くてよ…クリスマスイブぎりぎりまでクエストに行くことになっちまった」
「え、え…?」
「ごめんな。黙ってたせいでナツに寂しい思いさせちまった。でも、サプライズで渡したくて…」

 今日はもう二度目だ。理解が追い付かないのは。
 つまり…つまり、だ。グレイは、オレにこれを買うためにクリスマスデートの誘いを断ったと。これを、買うために…。

「……………嬉しい」
「え?」
「あり、がとな。グレイ」

 ああ、オレ、今ちゃんと笑えてるかな。泣いたりしてないかな。でももうダメ。嬉しすぎて泣きそうだ。さっきまでの怒りや悲しみはあっという間にどっかに消え去って、今のオレの頭の中は幸せでいっぱい。
 だって、グレイからもらった、初めてのプレゼント。嬉しくないわけがない。
 精一杯グレイにありがとうと伝えてから、小さく…本当に小さく好き、と言ったらグレイに思いっきり抱き締められた。そして耳元で囁かれたことばは、今まで貰ったどんなものよりも幸せな、最上級の贈り物。



prev next

[back]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -