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  ある日の昼下がり


 のどかなマグノリアの昼下がり。仕事もなく、時間を持て余していたナツはギルドの近くにある森で昼寝をすることにした。
 森の奥にある、小さな泉の側で横になったのは早めの昼食を食べた後ぐらいだったように思う。心地よい風、どこか落ち着く草花や土の匂いに誘われるまま、ナツの瞼は下りていって。そしてそれからしばらく、午後の暖かな陽射しに包まれながらナツは昼寝を開始した。

 どれくらい眠っただろうか。
 ナツが次に気がついた時には、何故か隣でグレイが寝ている状態だった。しかも腰にはぐるりと腕まで回っている。横ですやすやと眠るグレイを寝ぼけ眼で見つめていたナツは、ぼやけた頭でようやくこの事態を把握して、ぱちりと大きく目を瞬かす。

「え、なんで、コイツがここに、」

 事態を把握して、次に襲ってきたのは純粋な疑問だった。いつもであれば、こんなことをされたら相手が寝ていようが何だろうが問答無用で拳を使って叩き起すナツだが、今日は不思議とそういう気が起きず。
 とりあえず状況を詳しく把握しようと、ナツはやっと起き始めた頭を必死に回転させる。

「今日はやることがなくて、暇だったからここに来て、昼寝して…」

 それで、気がついたらこの状態だった。把握するも何も、といったこの状況に、ナツは眉間に皺を寄せることしかできない。
 基本的に気配には聡いナツだが、何分今回の相手はグレイだ。気を許しまくっている相手に警戒も何もない。きっと自分が爆睡している間にでも来たのだろう。
 そう思ったところでふと新たな疑問が浮かんだ。ここは森の奥で、中々人が来るようなところではない。ギルドからナツが昼寝をしていたこの場所まではそこそこ歩かなければならないのだ。だからナツもあまりここには来ないし、ましてやそんなところにグレイがわざわざ来るはずがない。
だが、先に述べたことに反して、グレイはわざわざここまで来た。ならばナツか、もしくはこの森に用があって来たのではないのか。もしそうだったのなら、何故ナツと一緒に眠っているのか。
どう考えてもおかしい。普通ナツを見つけたら、森に来た理由は何であれ、起こすところだろう。

(まじでこいつ何しに来たんだ…)

いまだに横で眠っているグレイをちらり、と見やる。ナツが半分起き上がっている状態だというのにその腕はちゃっかりとナツの腰を捕らえたままだ。そんな様子を見たナツは、なんだか小さな子どもが母親にすがり付きながら寝ているようだな、と思ってクスリと笑う。ナツは何故か急に、グレイがここに来た理由だとか、どうして一緒になって寝ていたのだとか、そんなことはどうでもよくなってしまった。ぽすん、とナツはグレイの隣に倒れ込む。
さわさわと、爽やかな風が木々を揺らす。そんな木々の隙間から漏れる木漏れ日。暑くもなく、寒くもない、とても過ごしやすい陽気。森のどこかで、鳥が鳴いている。
一言で言うと、とても、心地よい。

(ああ…なんていうか…)

平和だ、そして幸せだ。
唐突にナツは思った。
ここのところ、大きな仕事が多かったからだろうか。こうしてのんびりできる時間が少なかった。
勿論、大きな仕事が嫌なわけではないし、むしろ自分の強さを試すことのできるチャンスだとも思っている。元来、じっとしていられるタイプではない、戦いとなるとどこか興奮する質でもあるナツだ。大きな仕事は素直に嬉しいと思う。
でも、やっぱりこういうのんびりとした時間が恋しくなる時がある。愛しい人と一緒に、他愛もない話をしたり、眠ったり。唐突に、そんなことをしたくなるのだ。

(…なんて、やっぱ女々しいよなーオレ。…でも、)

そんなことを思ってしまうほどナツはグレイのことが好きなのだ。
グレイの寝顔を見つめながら、ナツは愛しげに目を細める。それから小さく、噛み締めるように「グレイ、」と呟いて、眠っているグレイの唇に自分のそれを軽く押しつけた。

たまにはこんな日も悪くない。



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