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  風邪は恋しさを連れてくる @


 いつものようにギルドに行くと、なんだか違和感を感じた。
 なんだろうと思ったら、グレイがまだ来ていないことに気づく。いつもならとっくに来てるはずの時間なのに。クエストに行くなんて聞いていないし、おかしいな。不思議に思ったオレはカウンターに向かい、ミラに声を掛ける。

「なぁ、ミラ。グレイは?」
「それがねぇ、グレイったら風邪を引いたみたいなのよ」
「はぁ?グレイが風邪?」

 ありえない。いつも上半身裸で過ごしていて、しかも昔は雪山で修行をしていたというアイツが、風邪?なんだ、今日はエイプリルフールじゃねぇぞ。

「冗談だろ?アイツに限ってそんなこと…」
「ホントよ〜?朝、具合悪そうだったから熱をはかったら39度あってね…」
「39!?」
「そうなのよ。すぐに家に帰したから、今は寝てるんじゃないかしら」

 ミラの表情に嘘はない。そんなことは見ればすぐわかる。グレイが風邪、というのはどうやら本当のことらしい。しかも普段から低体温なアイツが39度。重症だ。オレは素直に、グレイのことが心配になってしまった。
 大丈夫、なんだろうか。

「心配なら様子を見に行ってみたらどうかしら?」
「はっ、え!?なんでオレが!」
「ナツ、さっきからそわそわしてるんだもの」
「してねぇ!」

 してない。…と、思いたい。
 本当は、グレイの具合が気になるのだけれど。そんなこと、気恥ずかしくて口が裂けても言えないし。だから、今から堂々と様子を見に行くとかそういうことは少ししにくい。グレイを心配して、とか言ったら皆にどんなことを言われてからかわれるか。簡単に想像できてしまう。そんなの御免だ。でもグレイのことが心配なのは確かだったので、オレは思わずどうしようかと唸ってしまった。
 そんなオレを見かねてなのか、ミラがきらきらとした笑顔でいいことを思いついた!とでもいうように手をポンッと打った。

「おつかいを頼んでもいいかしら?」
「おつかい?」
「そう。あのね、グレイにこれを届けてほしいの」
「これ?………風邪薬?」
「そうよ。これを届けるついでに、グレイの様子を見てきてくれる?」

 そう言ってミラは俺に風邪薬を手渡す。相変わらずミラには隠し事ができない。すべてお見通しだったらしいミラは気を利かせて、オレが堂々とグレイの元に行けるよう理由を作ってくれた。

「…ありがとな」

 何だか照れくさくて、いつもより小さい声でミラにお礼の言葉を呟いて、オレはすぐさまギルドを飛び出した。向かう先は、グレイの家。全速力でオレは道を駆けた。




「グレイー?」

 いつもの半分くらいの時間でグレイの家に着き、息も整わないまま玄関の前で声を掛ける。呼び鈴を押して、声を掛ける。それを繰り返すものの、中からの返事はおろか、人が動くような気配すら感じられない。

「…ま、風邪引いてんだし当たり前か」

 しかしこのまま玄関の前にいても埒が明かない。どうしたものか。真っ先に思いついたのはドアをぶっ壊すという方法だったが、病人がいるからそれはまずいか、と少し考え直す。
 ちょっとばかり考えた結果、オレは一応試してみる価値はあるよな、とドアノブに手を掛けた。
 カチャリ。
 想像していた固い鍵のかかった感触の代わりに、ドアは軽やかな音を立て、オレを招き入れるかのようにすんなりと開いた。

「…ちょっと無用心すぎじゃねぇ?」

 少しそう思ったものの、開いたおかげでドアを壊すはめにならなかったし、今日のところはすべてよしだなと考え直す。オレはまだこの家にきた目的を果たしていない。こんなところでもたもたしている場合ではないのだ。

「お邪魔しまーす…」
 
 返事をする人はいないとわかってはいるけれど、オレは控えめにそう声をかけてグレイの家に足を踏み入れたのだった。



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