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  優しくしないで


 子どもの頃から一緒にいたんだ。アイツのことならなんでも知ってる。好きなものも、嫌いなものも、何もかも。
 ……オレをどう思っているのかも。それはもう嫌ってほどに。



 アイツとは幼馴染みで、喧嘩仲間で、ライバルで。ただ、それだけだった。
 なのに、いつの間にかアイツを目で追っていたり、名前を呼ばれたり、話しをするだけで嬉しくなっている自分がいた。自分でも気がつかない内に、オレはアイツのことを好きになっていたのだ。
 最初はこの気持ちの意味がわからなくてすごく悩んだ。でも自覚をしてしまえば話は早い。オレの気持ちは止まることを知らずにどんどんと加速していくばかりだった。
 しかし、もやもやとしていた自分の気持ちにちゃんとした名前がついてすっきりしたのも束の間、恋はそんなに甘くないのだとばかりに新しく問題が浮上した。

 アイツはオレをどう思っているのか。

 答えは、すぐに出た。
 アイツは──グレイはオレのことを"なんとも思ってない"。


『ナツ?別に、ただの仲間だろ』

 ドアの向こう側から聞こえてきた声。グレイがルーシィにそう言っているのが耳に入ってきたあの日。グレイの気持ちを聞いてしまったオレは、涙を流すこともなく「まあそうだよな」と妙に冷静に思った。
 いつも憎まれ口ばかり叩いて、喧嘩ばっかりしている相手を好きになる奴なんているわけないし、なによりオレもアイツも男だ。恋愛対象になど到底なるはずがない。

「はぁ…」

 溜め息をつきながらギルドをぐるりと見回す。グレイの姿はすぐに目に止まって、凍りついたように視線を動かせなくなる。グレイは端っこの方でギルドの仲間と談笑していた。楽しそうにしているその姿を見つけて少し嬉しくなったのと同時に、気づいてしまったのは複数の視線。本人は気づいてないようだが、ギルドにいる数人の女がちらちらとグレイの様子を伺っている。
 ああ、あいつらもか。
 オレと同じ気持ちを持っていることはすぐにわかった。でも、同じ立場だと共感することはできない。
 女は細くて、柔らかくて、優しくて、守りたくなるような存在で。オレとは真逆だ。オレより遥か上にいる彼女たちには、グレイに想いを伝えてその隣に立つ権利がある。きっと、いつかは告白するんだろう。少し羨ましい。

 何だかんだいって、グレイはギルド内では5本指に入るくらいモテる。元々顔立ちがいいし、何より仲間想いで優しい。そこが女にうけるのだろう。今までだって、幾度となくグレイが告白されるところを見てきた。
 その度にずきずきと心が痛むのを感じながら、オレはどこまでも報われないこの恋に、実を言うと何度も嫌気がさしていた。でもグレイを好きっていう気持ちはどうやっても消せなくて。苦しい想いを抱えたまま、ずるずるとアイツの仲間というポジションに落ち着いている。
 出来ることなら全てぶちまけて楽になりたい。でも、そんな勇気はない。嫌われたくなかった。自分がこんなに臆病者だなんて、この恋で初めて知った。

「はぁ………」

 そこまで考えてオレはもう一度深く溜め息をつく。
 考えれば考えるほど胸が苦しくなる。オレはどうすればいいんだ?気持ちを伝えるつもりはないのに、好きという想いは増すばかり。オレの心はグレイへの気持ちでいっぱいだ。苦しくてたまらない。

「……ナツ?」

 そんなことを考えながらカウンターに突っ伏していたら、いきなり耳元でグレイの声がした。驚いたオレは思わず飛び起きる。

「…っ…!?グレイ!?」
「なんだよ。そんなに驚かなくてもいいじゃねぇか」

 驚きたくもなると心の中で思いっきり叫んでやる。いきなり耳元で喋るのは反則だ。心臓がこれでもかってくらいのスピードでばくばくと音をたてている。

 落ち着け、落ち着くんだオレ。
 深呼吸を何回か繰り返して、なんとか落ち着いてからオレはふとあることに疑問を感じる。グレイ、さっきまでギルドの端っこで他の奴らと話していたのに。なんでこっちに来たんだ?

「…お前、大丈夫か?」
「は?」

 グレイが何故こっちにきたのかわからなくて首を傾げていると、突然グレイが「大丈夫か」などと言いだした。意味がわからなくて思わず聞き返す。

「いや、だからよ……さっきからカウンターに突っ伏してたし、今も顔赤いじゃねぇか。具合悪いんじゃないのか?」
「へ?いや、これは…」

 お前のせいだ。
 なんて言えるはずもなく。オレは返す言葉を見失って黙り込んでしまった。それを肯定ととらえたのか、グレイが軽く溜め息をつく。

「…お前は昔っから無茶しすぎなんだよ。心配するこっちの身にもなりやがれ」

 予想を遥か上にいったグレイの言葉に、オレはこれでもかというくらい目を見開く。
 今、こいつ、何て言った?聞き間違い?グレイが、オレを、心配って。

「わかったら今日は家に帰って休め。クエストなんかに行ったらぶん殴るからな。わかったか?」
「……ぉ、ぅ」
「ん、じゃあまたな」

 去り際にオレの頭をくしゃくしゃっと撫でて、グレイはまた元の場所に戻っていく。


 いつも喧嘩ばかりしているオレとグレイ。今までひどい言葉もたくさん言ってきた。
 そうだ。お前は、オレのことなんかなんとも思ってないなはずだろ。諦めようとさえ思っていたのにこんなことされたら、少し期待してしまう。

 お願いだから、優しくするな。



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