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  朝食は君と @


※現パロ


 日曜の朝。どこからか聞こえてきた鳥のさえずりに起こされたマスルールは、ベッドからむくりと体を起こした。
 サイドテーブルに置いてある時計を確認すると、いつも起床する時間とほぼ同じ時間。この時間に起きるのはもはや癖のようなものらしい。
 どうにも二度寝をする気が起きなくて、マスルールは気だるい体をなんとか動かし、洗面所へ向かった。


 朝起きたらまずは顔を洗って身だしなみを整えて。昔から言われてきた教えをきっちりと守っているマスルールは簡単な身支度を済ませ、キッチンの前に立っていた。

 さて、今日の朝食は何にしようか、と。

 マスルールはあまり料理をしない。一人暮らしだから作る機会はいくらでもあるのだが、大体はコンビニで何かを買って済ませたり、外食をしてしまう。
 例外といえば。

「(あの人が、作ってくれるときぐらいか…)」

 意外と食生活とか、そういうことには口うるさい一つ年上の彼を思い出す。
彼が作る料理はなかなかの味で、暇なときは彼の家に押し掛けて作ってもらったりしているのだが、生憎、今この場にはいない。
 しょうがなくその辺に置いてあった食パンとりんごを手に取る。今日の朝食はこれで事足りるだろう。
 と、そんなことを思っていたときにインターホンが鳴った。時計を見る限り、まだ人が来るような時間帯ではない。

「(誰だ…?)」

 訝しみながら、マスルールは玄関へと向かった。




「よっ!」
「……………」

 ドアを開けた先にいたのは、先ほど思い浮かべていた先輩だった。部屋着っぽい適当な服に彼が愛用しているスニーカー、それにプラスして手には何故か近所のスーパーのビニール袋というスタイルで平然と「お前今起きたの?」なんて言って立っている。
 予想だにしていなかった人物の訪問にマスルールは思わず無言になった。こんな時間にくるなんて、大方会社の上司兼育ての親であるシンドバッドかジャーファルだと思ったのだ。
 なのに、なんでこの人が。
 マスルールは厄介者を見るようなじっとりした目で先輩、もといシャルルカンを見る。

「…こんな朝っぱらから……はぁ…」
「何だよ!その溜め息は!」

 確かにさっき思い浮かべはしたが、来てほしいとは思っていない。
 突然現れたシャルルカンに、マスルールはあからさまな溜め息をつく。
 もちろん来て早々溜め息をつかれたシャルルカンは納得がいかない、とばかりにぎゃいぎゃいとわめきたてる。
 そんなこんなでいつもの口喧嘩が始まってしまった。

「先輩がわざわざ来てやったんだぞ!ありがたがれ!もっと嬉しがれ!」
「やです」
「なんだと!」
「…………先輩、」

 いつもなら誰かの仲介が入るまで延々と続くこの喧嘩。だが今回は少し勝手が違った。
 今は日曜の比較的早い朝。普通ならまだ寝ているような時間だ。そんな時間に騒ぐなんて近所迷惑も甚だしいというものだ。
 冷静にそう考えたマスルールは、いまだにバカだとかアホだとか低レベルな暴言を吐き続けるシャルルカンを無理矢理黙らせる為に彼の口を手のひらで塞ぐ。
 実際は塞ぐ、というより叩きつける、と言ったほうがいいような勢いだったが…まあそこはいいとしよう。

「もががっ…!」
「うるさいっす」
「うっへー!はなへ、アホ!」
「口塞いでもうるさいとか…はあ…」
「…っぷは!相変わらず失礼な奴だな!!…ったく…せっかく材料持参できてやったのによー…」

 ガサリ、とシャルルカンは手にしているビニール袋を掲げて文句垂れる。
 そこでやっとマスルールは先程から妙に存在感のあったその袋に目線を移した。そういえば、シャルルカンが何をしにきたのかをまだ聞いていない。

「…なんすか、それ」
「ん?朝飯の材料!どうせお前まだだろ?」
「はあ、まあ…」
「だからさ、朝飯作ってやろうと思って!」

 にかっといい笑顔でそんなことを言い放つシャルルカンに、マスルールはこれはどういう偶然なんだろう、と呆気にとられる。
 朝食前に彼の思い浮かべたからこんな都合の良い奇跡が起きたのだろうか。

 これが以心伝心か。
 思わず、普段なら絶対思い浮かばないであろう考えがマスルールの頭に浮かぶ。
 そんなことを考えてしまう自分の脳味噌にも嫌気がさして、マスルールはもう一度だけ軽い溜め息をついた。
 いつかだったかシンドバッドが「溜め息をついただけ幸せは逃げる」と言っていたが、それなら自分はこの目の前にいる人にどれだけ幸せを取られているのだろう、などと考えながら。

「…とりあえず近所迷惑になるんで…入ってください」
「近所迷惑ってお前なぁ……まあいいや。お邪魔しまーす」

 かくして、賑やかな朝がやってきた。



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