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  捕らえられる @


 なんでだ。
 どうしてこうなった。

 先程から俺は上手く回らない頭でこんなことばかり考えてる。混乱しているというかなんというか。いやまあ混乱したくもなるだろう、こんな状況じゃ誰だって。こんな状況、というのはざっくり言うと後輩に押し倒されている状況なのだが。本当に解せない。何故こうなったんだ。
 いや、待て、俺。こんな状況でうだうだと考えいる場合ではないだろう。まずはこいつに退いてもらわなければ。

「ま、マスルールー…」

 混乱している頭をなんとか回転させ、とりあえず俺は俺を押し倒している後輩、もといマスルールに控えめに声を掛ける。いつものことだし、期待などしてなかったがやはり返事はない。マスルールはむっつりとした顔でこちらを睨むだけだった。この様子だとこちらが何かしない限り動かなさそうである。   しかし、自分で退こうにもファナリスであるマスルールに腕を掴まれてるため、動くことができない。
 正直困った。
 部屋には何も喋らないマスルールと、そんなマスルールに押し倒されている俺。なんだよ、この状況。どう考えても変だろ。一体この状況で俺にどうしろというのだ。

 誰か俺に対処法を教えてくれ!
 心の中で思わずそう叫ぶ。というか叫べるものなら今すぐにでもここで叫びたいところだ。本当に、対処法も解決法もなにも思い浮かばない。ちくしょう、なんだか泣きたくなってきた。
 どうすればいいのかわからなくなって泣きそうになっていると、ふと同僚の顔が頭に浮かんだ。
 そうだ、一旦落ち着こう。落ち着くんだシャルルカン。スパルトスが前に言ってた。どうすればいいのかわからなくなった時はまず、どういう過程でこうなったのかを考えればいいって。
 よし、それだ。とりあえず思い出そうじゃないか。




「っしゃー!終わった終わった!」

 アリババとの修行も終わり、俺はいつものように飲み行こうと考えていた。だがしかし、ピスティやスパルトス、ヤムライハ…と誘ってみてもみんな「今日は予定が入ってるから」と、断られてしまった。こんなことは珍しい。大体はみんな予定がなく、俺が半強制的に連れて行くのに。
 立て続けに断られて、俺は少し困った。この三人がダメとなると、誘える人に限りが出てくるからだ。
 家庭があるヒナホホさんやドラコーン将軍を誘うのは気が引けるし、王サマは禁酒中の上に今日は仕事漬けだと聞いた。そんな王サマを誘いに行ったりしたら、俺がジャーファルさんにぶち殺されることになるだろう。

 しょうがない、今日は自室で一人酒でもするか。
 そう思ったところで、あと一人、誘ってないことに気が付いた。

「…マスルールを誘って部屋で飲むか」

 あいつなら暇だろうし、俺の誘いを断ったりしないだろう。今までの経験でそう決めつけて、俺はマスルールの自室へと向かった。



「おーい!マスルールー!あ、いたいた」
「……なんスか」

 ノックもなしにドアを開け、ずかずかと部屋の中に入ると、いつも身に付けている鎧と大きな剣を外し、幾分か身軽になったマスルールがそこにいた。どうやら剣の手入れをしていたようだ。突然、遠慮もなく部屋に入ってきた俺が気に食わなかったのだろう。あからさまに嫌そうな顔をしている。まったく、毎度毎度そんな顔をされるこっちの身にもなってほしいものだ。
 まあこの際そんなことはどうでもいい。とりあえず、今は酒を早く飲むのことの方が優先だ。

「なぁ、どうせお前今晩暇だろ?一緒に飲もうぜ」
「…なんで俺なんすか」
「あぁ?マスルールてめぇ…先輩直々に誘いにきてやったのになんだその態度は。別にいいだろ、酒飲むくらい」
「はあ…いや、もう俺寝たいんすけど」

 今のは流石にイラっときた。さっきの嫌そうな顔も含め、マスルールのこのような態度はいつものことだが、こう何度もやられると腹が立つ。
 それが先輩に対する態度か。敬いが感じられない。こいつ、確実に俺のことを馬鹿にしている。大体こいつは…ああダメだ。考えれば考えるほどむかついてきた。
 心の中で毒づきながら、目の前に座っている可愛いげのない後輩をギッと睨みつける。…と、明らかに面倒くさそうな顔をしたマスルールと目が合った。目が合った瞬間にこれ見よがしに溜め息をつかれた。

「ハァ……」
「おいこら!溜め息つくんじゃねえ!傷つくだろ!!」
「はあ、もうわかりました。面倒くさいんで飲むんなら早くしてくれませんか」
「面倒くさいって…てっめぇ…まじで覚えてろよ…」

 何故俺が誘いに来たのにそんな上からな態度で言われなきゃいけないのだ。むかつく、むかつく、むかつく!
 飲むことになったのはいいが、いかんせん腹の虫が収まらない。毎回こうだ。俺ばっかりいらついている。悔しい、悔しすぎる。なにかこの可愛いげのない後輩に仕返しをする手立てはないものなのか。頭をフル回転させてマスルールの弱味になりそうなものを探す。
 そこでふと、この前ピスティから聞いた話を思い出した。我ながらこのタイミングで思い出すなんてなかなかだと思う。よし、今日はこの話をネタに、存分にからかってやろう。
 この先のマスルールの反応を思い浮かべて、思わずにやけそうになりながらマスルールに声をかけた。

「とりあえず飲もうぜ。今日は良い酒を持ってきたんだ」
「……ッス」

 面倒くさいから早くしろ、と言ってきたマスルールだったが、良い酒、と聞いてちょっとは乗り気になったようだ。自分からいそいそとグラスを用意している。
 よし。順調だ。ある程度飲んだところでさっき思いついたネタでからかってやろう。
 そう思いながら俺は、マスルールが用意したグラスに酒を注いだ。



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