note

  まるで愛されているかのような sideМ


side M

 いつからだろうか。
 自分が無意識の内に、彼女を大切に扱い始めたのは。


 この関係を始めたばかりの頃は、ただ機械的に行為をやってそれでお仕舞いだった。
 自分の気持ちには名前をつけずに蓋をして、でも彼女を独占するのは忘れずに。ただただ、刻みつける。それが機械的に終わらすという結果をもたらしていた。
 甘い言葉どころか、こちらが向こうに声をかけることすらない。ひどく、冷めた関係だったと思う。

 でも、それでも彼女は違った。行為中のシャルルカンはマスルールの名を呼び、気遣い、そして…微笑んだのだ、幸せそうに。
 本人は無意識でやっていたのかもしれないが、それはマスルールにとって大きな衝撃だった。

 そして、錯覚した。
 彼女は自分を想っているのかもしれないと。

 一度考えて、すぐにその可能性はないと頭の中から消したその可能性は、今度は頭から離れなくなった。それくらいに彼女の態度はマスルールにとって甘いものだったのだ。好きという感情がひしひしと伝わってくるような気さえした。
 しかし悲しいことに、マスルールはそんな幻想に溺れるほど子供ではなかった。いつも頭のどこかに冷めた自分がいて抑制をかける。

 溺れるな、勘違いするな、自惚れるな。彼女は自分を通して想い人を見ているだけ。

 もはや感情に蓋をしたとは言えない自分自身の自己暗示に、マスルールは軽く嫌悪感を覚える。
 自分はこんなにわかりやすい人間だっただろうか。いや、確かにわかりやすい人間だったかもしれないが、こんなにも何か1つのことに対して欲を発揮する人間だっただろうか。しかも物ではなく、人に。
 シンドバッドへの忠誠心とはまったく別物と言える初めて抱く感情。最初に言葉にしない方が賢明だと自分の勘が言ったのにも関わらず、どんどんと溢れ出してくる。

 全部、この人のせいだ。
 心の中で理不尽な悪態をついてから目の前で眠っている愛しい彼女にそっと触れる。指の間をさらりとすり抜けていく銀髪の感触が心地いい。マスルールはそのまま飽きもせずに彼女の髪に触れ続けた。

 期待をさせるような、そんな反応はやめてほしい。そんなもの、自分にとっては毒でしかないのだから。



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