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まるで愛されているかのような sideS
side S マスルールと初めて寝た日から早数ヵ月。相変わらずシャルルカンの方から誘うばかりの一方的な関係が続いていた。
しかし、変わった部分もある。回を重ねるごとに、マスルールの態度が変わってきたのだ。たぶん悪い方ではない。むしろシャルルカンにとっては良いと言える方向にだ。
「…ん、……?」
さら、と自分の髪を撫でられる感触にシャルルカンは目覚めた。疲れていつの間にか眠ってしまったようだ。体に事後のような不快感はない。きっとマスルールが後処理をしてくれたのだろう。相変わらず何だかんだ言って面倒見のいい奴だ。
そこでふと彼がどうしているのか知りたくなって、それと先程の撫でられた感触の正体を確めたくて、気づかれるとわかりながらもシャルルカンは薄く目を開けて隣にいるであろうマスルールを見た。
そしてすぐに、見るんじゃなかったと後悔することとなる。
薄く目を開けて見たマスルールは見たこともない表情をしていて。
わかる人にしかわからないものではあったが、愛しいという気持ちが見え隠れするその表情にシャルルカンは心臓を握られたような錯覚に陥る。
その表情は誰に向けたもの?俺だって、自惚れてもいいのか?
先ほど言ったマスルールの変化とはこれのことだ。
二人でいるときの柔らかな雰囲気や表情、大切な宝物に触れるかのように優しく触れてくる指先。
どれもこれも長年一緒にいないと到底わからないであろうレベルだったが、それを感じとったときのシャルルカンの衝撃といったらなかった。
こんなに長い間共に過ごしたのにも関わらず、今まで一度として見たことのなかったマスルールの一面。シンドバッドやジャーファルにさえも見せたことがないだろう彼の新たな部分。
それを自分といる時にだけ見せるとは、どういう意味なのか。最近のシャルルカンの頭の中はこのことで埋め尽くされていた。
自惚れてもいいのだろうか。
そんな表情を見せてくれるくらいには、好かれていると。希望がなくなったわけではないと。
しかし、マスルールがこんな風にシャルルカンに触れてくるのは夜の間だけで、朝目覚めてからはまったくのいつも通り。まあ元々こんな関係なので甘いも優しいもないのだが。
でも、シャルルカンを困惑させるのには十分だった。
日が昇っている内は清々しいくらいにそんな態度を見せないのに、夜になると取って返したかのように優しくなるマスルールに、シャルルカンは少なからずどう接していいものか、と悩んでいる。
もやもや、ぐるぐる。自分には似合わない感情で、今のシャルルカンはいっぱいいっぱいだった。
大きな手がまたさらりとシャルルカンの銀髪をすく。
聡いマスルールのことだ、シャルルカンが起きていることにはとっくに気づいているだろう。しかしいまだにその行為は続けられている。
マスルールの気持ちがわからない。
再び眠気が襲ってきたせいでぼんやりとしている意識の中、シャルルカンは漠然とそう思う。
彼はこの温もりを一体何のつもりで自分に与えているのだろうか。彼がわからない。わからなくてわからなくて苦しくて。でも、ひどく幸せだ。
矛盾している気持ちを抱えたまま、マスルールの手の温もりを感じながらシャルルカンは再び眠りについた。
目覚めたら、またいつも通りだ。
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